切符もICカードも改札もいらない

英国やイタリアをはじめ、グローバルに欧州で鉄道ビジネスを展開している日立製作所が、世界初の技術を開発した。スマートフォンに所定のアプリをインストールすれば、どんな交通機関も切符やICカード不要で乗車できるという新たな交通システムである。

イタリア・ジェノバの街並み
筆者撮影
イタリア・ジェノバの街並み

「乗客は駅を出発してから到着するまで、ハンズフリーで乗り物に乗れます。ICカードやQRコードを改札機にかざす必要もありません」(同社)。いわば“手ぶら”で乗り物を乗りこなせる、という斬新なシステム。筆者はいち早く、実証実験の舞台になったイタリア北部の地中海に面した街ジェノバでこれを体験する機会を得た。本当に何もしないまま、好きに移動できるものなのか――。

バスに乗ったとたん、アプリが自動的に起動し…

筆者はイタリアでの体験を前に、日立の関係者から「切符は不要。非接触式ICカードやQRコードなどをいっさい使わない課金方法が完成した」と説明を受けた。しかし、正直なところ「そんな方法なんてこの世に存在するはずがない」と疑わずにいられなかった。

日立が7月20日付で公表した資料によると、「ルマーダ(Lumada)・インテリジェント・モビリティー・マネジメント」というシステムを用いて、イタリア・ジェノバで電車やバス、カーシェアなど都市全体の交通網を一つのシステムで接続することに成功した。

乗客はスマホの専用アプリ「360パス」を通じて、ハンズフリーで公共交通機関に乗車できる。アプリはブルートゥース(Bluetooth)を介して接続するので、利用者の現在地や乗車中の乗り物を判別する精度が高まる。

筆者はさまざまな疑問を抱えながらもジェノバに到着し、さっそくアプリを使ってバスに乗ってみた。すると、何もしていないのにアプリが起動、自分が乗っているバスの系統番号や乗車区間とともに課金が始まったことを示すバーコードが表示された。バスに乗ってから起動までわずか数秒、本当に「まったくのハンズフリー」で乗り物に乗れる現実を体験できた。

乗車するとアプリが自動的に起動し、課金が発生する仕組み
筆者撮影
乗車するとアプリが自動的に起動し、課金が発生する仕組み

スマホと交通機関のシステムをブルートゥースを使って交信させ、そのデータによって乗客の動きを捕捉するので、何もしなくても運賃は問題なく引き落とされていた。

なぜ日立は、こうした切符も改札機も要らない課金システムをジェノバで導入したのか。現地で筆者の取材に応じた日立レールの事業責任者は、その背景をこう説明してくれた。