便利な一方、「誤作動か?」と一瞬不安に

「360パス」ではこうした問題を一気に解決できる。利用者が持つスマホがあれば課金が成立するからだ。アプリをインストールし、登録者情報や支払い情報の入力を数分で済ませれば、すぐに乗り物に乗れるようになる。

安価で設備を完成できるというメリットは大きいものの、実際のところ「感覚的な運用面」ではやや不安を感じる。前述のように利用者が乗り物に乗ると勝手に運賃が引き落とされるのは確かに便利だが、乗った際に突然アプリが起動すると「誤作動なのかな?」と一瞬不安に感じたりもする。従来のようにセンサーにスマホやチケットをかざして「課金が始まる合図や確認」があったほうがユーザーフレンドリーかもしれない。

こうした課金の合図がないサービスへの不安感は、インターネット通販大手アマゾン・ドット・コムが米英で展開する無人店舗「アマゾン・ゴー」でも同様のことが起きる。店舗では商品を取った後、店員のチェックを受けることなく店から出られる。

商品は店内のセンサーで識別しており、登録しているクレジットカードに後日請求する仕組みだが、こうした流れを「万引のようだ」と評する人もおり、「買い物の後、誰かがチェックしてくれないと冤罪えんざいが起きそうでなんとも不安」との声も聞く。新しいテクノロジーとユーザーの使用感とのせめぎ合いは今後、さまざまな場面で起こるだろう。

券売機
筆者撮影
ジェノバの公共交通券売機。公共交通のチケットは共通しており、どこで買ってもいずれの乗り物にも乗れる

日本の最新技術はより広がるか

GoGoGeの導入プロジェクトは、コロナ禍での行動制限をどう解決するかを目的に始まったわけだが、いざ始めてみたら、不正乗車行為の減少はもとより、観光客に対し“よりストレスの少ない街移動”を実現する新しいツールとして使えることとなった。さらに、クルーズ船客が簡単に交通機関に乗り換えられる仕組みにも応用できるのは、ジェノバ当局にとって願ったりかなったりだったそうだ。

AMTのマルコ・ベルトラミ社長は「完全なコンタクトレスの運賃課金なんて、世界でここが初めて。きっとこれから、各国からの視察者がジェノバにやってくる。移動のハードルを下げることでより多くの人々と交流できることこそが、コロナ禍後の新たな時代の幕開けではないか」

数々の相乗効果が期待できる日立の新たな統合ソリューション「360パス」。財政難で設備投資がうまくいかない日本のローカル交通への応用も考えられそうだ。日本の最新技術がこの先、世界のさらに多くの街で展開が進むのか注目したい。

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