※本稿は、小林邦宏『鉄道ビジネスから世界を読む』(インターナショナル新書)の一部を再編集したものです。
世界中が衝撃を受けた「事故車両を埋める」という対応
2011年7月に中国の浙江省温州市で起きた高速鉄道の衝突脱線事故は、多くの点で衝撃的だった。
落雷によって動力を失いトンネルの手前で停車していた列車に、後続の列車が追突し、一部の車両が高架橋から転落した事故直後の映像の生々しさ。乗客40名が死亡(中国政府発表)した高速鉄道の衝突事故がどのようなものかを、すでに高速鉄道を運行している国の人々もはじめて目撃したのだ。
そして、さらに衝撃的だったのが、事故後の中国側の対応だ。
高架下に落下した事故車両は、事故から5日目の時点ではすべて高架下に埋められていた(その後、解体)。当時の温家宝首相は事故の原因究明が必要だと訴えていたが、残りの車両も事故直後に中国鉄路の車両基地に搬送されていた。現場保全の原則は完全に無視され、事故から2日後には、なにごともなかったかのように通常運行も再開されたのだ。
ナイジェリア、ケニアが事故数年後に鉄道建設を発注
普通なら「自国でこんな事故を起こし、隠蔽体質まで露呈した国に鉄道建設を発注して大丈夫か?」と考えるはずだが、ナイジェリア政府もケニア政府も事故後の14年に“なにごともなかったかのように”中国と鉄道建設の新たな契約を結んでいる。日本人の感覚からすれば、これも衝撃的だ。
しかし、「事故は起こるもの」という考え方もできる。そして「起きたとしても、大したことない」という考え方もあるかもしれない。それは、中国が大事故から2日後に通常運行を再開したことで証明されたともいえる。また、中国政府は、事故の犠牲者遺族への補償(ひとり50万元=約600万円)も事故から数日で決定している。
そして、これは重要な点だが、11年の悲惨な事故後も中国の高速鉄道の利用者数は増え続けているのだ(11年には年間約3億8000万人、14年は年間5億3000万人)。
この現実が意味するものは、なんだろう?