抗菌剤をやめれば生産量が減る

ただし、こうした勧告を受け入れて抗菌剤を飼料に添加しなくなった場合、おそらく畜産物の生産量は減少する。

というのも、抗菌剤の使用は生産量増大に直結しているからだ。

健康な家畜は餌を食べた分だけ太ったり、たまごや乳を出してくれたりするものだ。ただし、集約型の畜産では狭い場所で密飼いをするため、家畜にストレスがかかることが多い。

人がストレスで体調を崩すように、家畜も顕著に体調を崩し、おなかを下すなどしてしまう。お腹を下すというのは消化不良だから、せっかく食べた餌を摂取できず、畜産物に変換できない。

以前、若鶏(ブロイラー)の生産者に聞いた話だが、抗菌剤を添加した餌には整腸作用があるため餌の消化効率が上がり、結果的に出荷までの日数を5日程度短縮できるということだ。

100万羽、200万羽という巨大な養鶏事業において、5日間の差は大きい。その抗菌剤を使用できないとなれば、世界的に畜産物の生産効率は低下する。

しかしそれよりも耐性菌やウイルスが生まれてしまうことの方が脅威であると、WHOは考えているわけだ。

求められる「エシカルな畜産」

このように、畜産業への批判は実に多様な角度と論点から巻き起こっている。

しかし、こうした批判の帰結が必ずしも「畜肉を食べるべきではない」ということにはならない。

畜産業が直面しているさまざまな問題は、集約型畜産と、それによって大量生産される安価な畜肉が引き起こすものであって、アニマルウェルフェアを重視したエシカルな畜産の実践によって解消できる部分は大きい。

ただし、先に述べたようにエシカルな畜産を志向し、抗菌剤の添加もやめてしまうと当然、世界の畜産物の生産量は大幅に減少することになる。

そこで重要となるのが近年、注目を集める代替肉だ。

エシカルな環境で生産された畜肉とあわせて、代替肉を食生活に取り込むことで、我々の食事はよりエシカルになるのだろうか。