全人類がヴィーガンなら農地は4分の1

畜産業をめぐってはさまざまな批判が存在する。

なかでも、近年指摘されるのが、畜産業がもたらす環境への負荷についてだ。

国連食糧農業機関(FAO)によれば、人間の活動によって排出される温室効果ガス(GHG)のうち、14.5%は畜産業とそれに関係する産業が原因とされる。

特に、反芻はんすう動物である牛は、消化の過程で強力なGHGであるメタンを排出するため、家畜全体の排出量の65%を占めるとも言われるのだ。

また、家畜の飼育や、その餌となる穀物の栽培には多くの土地と水が必要だ。ここでの推計には諸説あるが、『エシカル・コンシューマー』によると、仮に人類全員が動物性食品を摂取しないヴィーガンになると、必要な農地面積は全世界で75%減少するという。

牛肉や豚肉などは「おそらく発がん性を有する」

畜産業従事者の人権問題への関心の高まりも見逃せない。

欧米各国がコロナ禍にあえぐ2020年中、主にと畜施設などで相次いでクラスター感染事例が発生した。

この背景には、安価な食肉供給を維持するため、低賃金でかつ過酷な労働環境に置かれる現場の労働者の実態がある。

彼らの多くが移民労働者であるということもあって、複合的なエシカル問題として、盛んに報道された。

畜産について厳しく問われているのは、環境問題や人権問題だけではない。

たとえば「肉を食べると体に悪い」というのも昨今よく耳にする話題だ。

特に、畜肉の摂取とがんの関係を懸念する声が多く、これには科学的にもある程度の裏付けが与えられている。

国際がん研究機関は2015年、「レッド・ミート」と欧米で称される、牛肉や豚肉など哺乳類の畜肉について、「おそらく発がん性を有する」という内容の評価を発表した。

いっぽう、実際にがんを発病するかどうかには、摂取量が大きく関係し、週に数回の適度な摂取であれば問題ないという、国立がん研究センターなどによる研究結果もある。

日本の2〜3倍程度の食肉摂取量を誇る欧米諸国と日本では、状況が違うという考え方もあるので、一概に肉が体に悪いとも言いきれない。

ただし日本も牛肉ブームが続くなど、食肉摂取量が増加している状況なので、注意は必要だろう。