※本稿は、國友公司『ルポ路上生活』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
「お盆だから炊き出しも休みなんだよ」
八月十二日。
翌日の昼過ぎ、白鬚橋の周りに続々と人が集まってきた。みんなから「ター坊」と呼ばれている四十歳くらいの男が、「俺金ないんだから貸しておくれよー。頼むよー」と集まった男たちに言い回っている。
このター坊という男はとにかくよく喋る。話し相手を見つけては相手が相槌を打つ隙も与えず、延々と話し続ける。「もう終わりにしてくれ」といった顔で相手がその場を立ち去ろうとしても、横をずっと付いて回っている。面白そうな男だが同棲するとなったら黒綿棒(編注:著者の國友氏が作中でそう名付けた長身のホームレス)よりもはるかに鬱陶しそうである。
みんなが集まっている理由が炊き出しであることは聞かなくとも分かりきっている。そうと知りながら何食わぬ顔でダンボールの上に待機している自分がとても卑しく感じた。しかし、途中から「来ねえなあ」「今日は休みか」という声があちこちから聞こえてきた。そして、私の近くに座っていた三人組のおじさんの一人がハッキリと言った。
「ないな」
「やっぱり炊き出しないですか?」
私が横から聞くと、一緒に行動していたかのようなテンションでおじさんが答える。
「ないなら前もって言ってくれればいいのにな。お盆だから炊き出しも休みなんだよ。ないと分かっていたらわざわざ来ないのによ」
たしかに周知する方法がないのであれば、先週の時点で言っておいてくれればいいのに。
山谷で食べるものに困ることはまずない
「じゃあ今日は飯抜きですか?」
「いや、もう腹いっぱい。午前中は玉姫公園で炊き出しがあったから。昼は上野公園でもあるだろ。上野公園を捨ててこっちに来たのによ。悲しさを通り越して虚しいよ」
玉姫公園とは山谷にある公園だ。ブルーシートで覆われた小屋がいくつか立っており、ホームレスが暮らしている。上野公園の炊き出しは私も行った火・木・金・土に開催されている韓国系キリスト教会主催のものだ。
「君は昼飯食べたのか? 余っているからこれやるよ。いいいい、食えって」
おじさんと一緒にいた二人も「どうせ捨てちゃうからもらってくれ」と、私に飲み物や弁当をくれた。都庁下と同じく東部エリアも飯に困ることはまずなさそうだ。
「俺たちは三百六十五日炊き出し回ってるんだよ。全部知ってるぞ」
週四日の韓国キリスト教会の炊き出しに加え、ここ白鬚橋でも毎週木・土に炊き出しがある。土曜日は十四時からもあるので日に二回だ。山谷地域も炊き出しが豊富だ。山谷労働者福祉会館、山日労(東京・山谷日雇労働組合)、キリスト教会、朝ご飯を出してくれる炊き出しもある。
明日から三日間は玉姫公園で「山谷夏祭り」が開催される。飯と酒が食べ飲み放題で、出店なども出る。音楽隊の演奏会やレクリエーションまであるという。少し離れるが八丁堀の公園でも毎週カレーが食べられる。