一方、試着したときの顧客の心理をどうくみ取るか。人がおしゃれをするのは自身の精神衛生と、もう一つ、「他人の目」を意識する面があります。ならば、接客する側は他人の目を代弁する形で、「よくお似合いですよ」と声をかければ、顧客もお世辞かもしれないとは思いつつも、その気になります。

あるいは、顧客が複数の選択肢で迷っていたら、「こちらのほうがよりお似合いですよ」と、自分の考えを示せば、顧客も自分の感想を話しながら、「ならば、こっちを買っていこうか」と意思を固めていくかもしれません。

そして、買っていって、周りから「いい服だ」とほめられれば、「あそこはいい店だ」とロイヤリティ(忠実度=継続して利用しようとする度合い)が生まれていくわけです。コンビニでもレジでお酒とおつまみを買おうとしている顧客がいたら、丁寧な応対をするだけでなく、レジ横のおでん鍋を指さし、「おでんなどもいかがですか。よく味がしみていますよ」などと声かけすれば、顧客も決して悪い気はしません。これも、そのときの顧客の心理をくみ取り、自分なりの考えを示す接客になります。

人間は「考える動物」であり、「心理で動く動物」です。だから、自分の考えに共感を得られることが一番うれしい。とすれば、どうすれば相手の共感を得られるかを、相手の立場で考える。それが成功に結びつくコミュニケーション能力の基本です。

※すべて雑誌掲載当時

(ジャーナリスト 勝見 明=インタビュー・構成 尾関裕士=撮影)