「凡庸な人事」に込められた岸田首相の野心
何とも代わり映えのしない顔ぶれである。勉強ができる「優等生内閣」という評もあるが、筆者は「いつか見た内閣」と命名したい気分だ。
岸田文雄首相が8月10日に実施した内閣改造・自民党役員人事はまったく面白味に欠ける内容に終わった。9月上旬に予定していた人事を大幅に前倒しした狙いは、いったい何だったのだろう。そう首を傾げる読者も少なくないのではないか。
しかし、サプライズのカケラもなくどこからみても凡庸なこの人事には、恐るべき政治的意味が込められている。
今回の人事は、安倍晋三元首相が凶弾に倒れて政界から突如退場し、最大派閥・清和会(安倍派)が旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題の直撃を受け金縛り状態にあるなかで電撃的に断行された。
後世、日本政界にこの20年続いてきた清和会支配を終焉させ、長らく低迷してきた宏池会(岸田派)時代へ移行する大きな節目と位置づけられるに違いない。
2001年の清和会支配の幕開けとなった小泉純一郎政権の劇場型政治とは裏腹に、国民の関心とは遠く離れた閉鎖的な永田町で目立たぬように進んだ清和会時代の終焉と宏池会への権力移行――。今回の人事の政治史的意味をじっくり解説していこう。
中枢ポスト維持、岸田―麻生体制はより強固に
岸田首相は今回の人事で、自民党のキングメーカーである麻生太郎副総裁(麻生派)と麻生氏に従順な茂木敏充幹事長(茂木派)、内閣の要である松野博一官房長官(安倍派)、林芳正外相(岸田派)、鈴木俊一財務相(麻生派)を留任させた。
政権中枢ポストはそのまま維持し、岸田―麻生体制をより強固にするという狙いはいかにもシンプルだ。
厚生労働相の加藤勝信氏(茂木派)と防衛相の浜田靖一氏(無派閥)は再登板。デジタル相には河野太郎・元行政改革相(麻生派)、経産相には西村康稔・元経済再生相(安倍派)。山際大志郎経済再生相(麻生派)は留任。このあたりの人選は「いつか見た内閣」といったイメージをかき立てる。