岸田首相と麻生氏から明確に決別された今回の人事はかなりの痛手だ。菅氏は8月8日収録のCS番組で入閣の意欲を問われ「閣内でということで限定すれば、そこは考えていない」と答えた口調は弱々しかった。岸田首相や麻生氏が自らを入閣させる気がないことを事前に察し、この先の展望が閉ざされたショックを隠し切れなかったのだろう。
さらに菅氏にとって岸田―麻生体制に立ち向かう最大のカードである河野氏を閣内に取り込まれたのも厳しい。
河野氏は地元・神奈川つながりで築いてきた菅氏との連携を維持するつもりはあっても、菅氏に同調してこの先2〜3年も冷や飯を食い続ければ存在感が埋没することを恐れたに違いない。河野氏入閣にも岸田首相と麻生氏の「菅つぶし」の徹底ぶりがうかがえる。
もはや脅威ではなくなった
菅氏としては二階俊博元幹事長や石破茂元幹事長、小泉進次郎元環境相らとの連携を強化するしかないが、二階氏は高齢のうえ幹事長を離れた後は存在感が急速に薄れている。石破氏も「過去の人」になった感は否めない。
小泉氏ら菅シンパも岸田政権の長期化が見込まれるなかで菅氏と徐々に距離を置く可能性もある。安倍政権が石破氏を見せしめのように冷遇することで求心力を増したように、岸田政権は菅氏を徹底的に干し上げることで求心力を高めるのではないか。
菅氏の盟友である日本維新の会の松井一郎代表は、すでに政界引退を表明しており、菅氏は手詰まり感を深めそうだ。
公明党・創価学会は岸田首相や麻生氏との接点が薄く、菅氏を自民党との交渉窓口にしてきたが、早ければ9月にも予定されている山口那津男代表から石井啓一幹事長への世代交代を踏まえ、岸田政権の長期化をにらんで新たなパイプづくりを模索することになるだろう。
安倍派を制圧…清和会から宏池会の時代へ
まったく面白味に欠ける内閣改造・自民党役員人事だったが、岸田首相と麻生氏にとっては清和会をほぼ制圧し、最大の政敵である菅氏に大打撃を与え、自民党内の権力基盤を着実に固めるものになった。
自民党は清和会時代から宏池会時代へ確実に移行したといっていい。
その強固な体制のなかで岸田政権が次に目指すものは何か。安倍氏の悲願であった憲法改正は後景に退くであろう。ここでも旧統一教会の憲法観と自民党の憲法改正案が似通っているという世論の批判を口実にすることができる。
池田勇人、大平正芳、宮澤喜一ら大蔵省(現財務省)出身の首相を輩出した宏池会の悲願は、憲法改正ではなく、消費税増税だ。
財務相を9年近く務めた麻生氏がキングメーカーとして君臨するなかで大宏池会が再興し、最大派閥として自民党支配を確立した先にあるのは、消費税増税であろう。