欧米の利上げで、投資家たちは円を売ってドルを買った
【池上】日銀は、日本経済が好景気になって、結果的に緩やかなインフレになることを目指していたのですが、景気がよくならないままにインフレになりそうなんです。
一方で、日本がひたすら金利を下げて市場にお金が出回る政策を続けてきたところで、アメリカの景気が良くなってきたことから、FRB(連邦準備制度理事会)が金利を引き上げ、さらにECB(欧州中央銀行)も金利を上げました。
お金というのは金利が低いところから高いところに流れます。なぜなら、日本でお金を預けていても、現在は利率が0.001%程度でほとんど利子がつかないけれど、アメリカの銀行に預ければ実に1.75%もの金利が付く。同じお金なら、アメリカのお金として預けている方がいいわけです。
そこで世界の投資家が円をドルに変える、つまり円を売ってドルを買うという行動に出たことで、円安が進んだ、という状況にあります。
たった3カ月で円の価値が変わってしまった
【増田】円安の影響は食卓など多くの人たちの生活に直接的な影響を及ぼし始めています。私も6月末に海外取材に出たときに、あまりの円安に驚きました。3月にも海外取材に出たのですが、たった3カ月余りで円の価値が全く変わっていたんです。
【池上】各国はアメリカが金利を上げているのを見て、「低いところから高いところに流れては困る」とばかりに、金利を上げています。日本も円安を阻止するためには金利を上げればいいのですが、そうなると景気が良くならない。つまり日本は、景気をよくするために金利をゼロにしておく必要があるけれど、しかしそれによって円安が進んでしまう、というジレンマに置かれているんですね。
しかも日銀が民間の銀行から国債を買いまくらなければならないことで、別の問題も出てきます。それが「債務超過」の問題です。
日銀が国債を買ってくれる安心感
【池上】たとえば満期時に100万円戻ってくる国債だったら、98万~99万円という価格で銀行が買うことで、その差額の1万~2万円を銀行の利益にしていました。
ところが今は、ものすごく金利が低いので、100万円償還される国債を、銀行は99万9999円くらい、下手すると100万円で買っている。本来なら全く儲けが出ないのにそれでも銀行が国債を買うのは、日銀が「国債を買わなければならない」からです。ちょっと極端に言えば将来的に100万円戻ってくる国債を、101万円で銀行から買っているような状態です。
銀行からすれば、100万円の価値しかないものを、100万円以上で日銀が買ってくれるし、国債を発行する国の方は利子を払わなくていいのですから、いわば「ウハウハ」の状態です。