日銀が利上げすれば、保有している国債の市場価格は下落する

【増田】日銀は国債を買えば買うほど、損することになりませんか。

【池上】そうなんです。本来日銀は、銀行から国債を100万円よりも安く買い、満期時に100万円戻ってきたときの差額を利益とし、そこから経費などを差し引いて残りの分は政府に納付していました。しかし今後は、国債を買えば買うほど損をすることになりかねない。にもかかわらず、毎年50兆円分(その後80兆円超)もの国債を買い続けています。

ここで問題になるのが日銀の債務超過です。

仮に、日銀の期待どおりに物価が上昇し、今度は金融引き締めのために金利引き上げをしなければならなくなった場合、日銀が保有している国債の市場価格は下落します。

すると、「国債を引き受ける代わりに日本銀行券を発行している」わけですから、日本銀行券、つまりお金の信頼度が下がってしまう。「日銀は民間銀行と違ってつぶれない」という話もありますが、債務超過に陥り、日銀自体の信頼が落ちれば、お金の価値そのものに影響が出る、との指摘もあります。

都会の不動産価格が上がったわけ

【池上】しかも日銀は、ETFやJ-REITも買い入れて、日本の株価を支えています。ETFは日経平均株価や東証指数など、株式市場の値動きに連動するように株価を買う投資信託のこと。J-REITは不動産を買う投資信託です。

株価や不動産価値が上がれば、企業活動も活発化し、土地を持っている人がそれを担保にお金を借りやすくなるだろう、そうすれば景気が良くなると考えて、日銀はこうした株もたくさん買い続けてきました。

【増田】株価や不動産価格は確かに上昇し続けていますが、景気は良くなっていませんよね。

【池上】多くの人には景気が良くなった実感はなかったと思います。得をしたのは海外の投資家だけ。日銀が買い支えるのだから、株価は下がりようがない。そのことを知っていた海外投資家だけが儲かることになった。

また、土地に関してもJ-REITが扱っているのは都市部の土地ばかりだから、都会の不動産価格は上がった。これも不動産を持っていない、これから買いたいという人たちには何のプラスにもならなかったんです。

青空に映える東京の臨海副都心の景色
写真=iStock.com/Moarave
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さらに消費増税が追い打ちを掛けました。安倍政権期の7年8カ月の間に、消費税は5%から8%、さらに10%へと引き上げられました。これがブレーキとなり、消費が落ち込みました。一方で金融緩和をしながら、一方では増税をしたことで、政府や日銀は「アクセルとブレーキを一斉に踏んだようなもの」と批判されました。