長年の差別や偏見がもたらした経済格差
アイヌ民族は長年にわたって、和人から迫害を受けてきました。北海道育ちの私は、子どもの頃にも間違いなく差別や偏見があったことを覚えています。そうした歴史の事実は、しっかり伝えていかなければなりません。
アイヌ民族の血を引く人は、日本社会のさまざまな分野で活躍しています。しかし進んで口にする人が少ないのは、そうした過去があるためです。俳優の宇梶剛士さんは、珍しい例です。アイヌ民族の母をもつ宇梶さんは、ウポポイのPRアンバサダーも務めています。
アイヌ施策推進法が施行されたとはいえ、まだ十分ではありません。「先住民族の権利に関する国連宣言」と比べて、権利の保障という面で弱いという指摘はその通りです。予算もまだまだ足りない。ようやくスタート地点に立ったところです。
具体的にいえば、教育や福祉に関して遅れが目立ちます。アイヌの人たちは、高等教育機関への進学率が低いことがわかっています。その背後にあるのは、長年の差別や偏見がもたらした経済的な格差です。教育の機会均等という原則から言っても、誰もがチャンスを得られるようにしなければなりません。
アイヌに見習う地球環境との付き合い方
7月14日には、政府の「アイヌ政策推進会議」が1年ぶりに開催されました。この場で、北海道内外の博物館に保管されているアイヌの遺骨を返還する指針案が、初めて示されました。北海道アイヌ協会からは、経済的に困窮しているアイヌの高齢者に生活支援などを行なうよう要望が出されました。
アイヌのお年寄りには、若い頃に年金に加入できなかった人がたくさんいます。これもまた国の責任ですから、一時支給などの支援ができないものか、私は考えているところです。エカシ(長老)、フチ(祖母)が生きているうちに、長生きしてよかったと言ってもらえる政策を実現したいと考えています。
アイヌの人たちがわれわれに教えているのは、地球環境との付き合い方です。アイヌ民族は、資源を無駄にしません。シャケでもクマでも、必要な分だけしか獲りません。そこには神事がつきもの、常に感謝を忘れません。
天の恵みを大切にし、物を粗末にしない伝統。ほかの人や故郷を大事にする気持ち。21世紀を環境の世紀というならば、アイヌ民族に習うべき点が大いにあると私は思っています。