「ほかのクラスの先生は、もっと太い棒でたたくんだ」

生徒を正しく教えさとすのに、体罰は必要だ――そういう考えは日本にもありました。有名なアニメ『機動戦士ガンダム』にも、主人公が上官になぐられたあと、『なぐられもせずに一人前になったやつがどこにいるものか!』と、いわれるセリフがあります。そして、体罰が法律で禁止されたのも、2020年4月になってからです。

まして戒厳令が解除されて2年とたっていない台湾では、オードリーのように体罰を受ける生徒は、あたりまえのようにいました。オードリーも、初めのうちは体罰に耐えていました。なぜなら、オードリーにはわかっていたからです。

「だって、先生にはクラス全員を管理する責任があるんだから」

それに、担任の先生のことは大好きでしたから、母にはこうもいっていました。

「ぼくたちの担任の先生は学校でいちばんいい人なんだよ。だって、先生が体罰に使うのはいちばん細い棒だもの。ほかのクラスの先生は、もっと太い棒でたたくんだ」

だからといって、体罰がこわくなくなるわけではありません。そして、生徒を管理したり教育するために、体罰が正しい方法だとも思えませんでした。

「せっかくギフテッド・クラスのある学校に転校したのに……。先生だって悪い人じゃないのに……。なのに、どうしてこんなことになるんだろう……」

しかし、オードリーのなやみは体罰だけでは終わりませんでした。ギフテッド・クラスならではの、新たな問題が襲いかかってきたのです。

「おまえはなぜ一番になれないのか」と父親に殴られていた同級生

ギフテッド・クラスの子どもたちは、才能にあふれています。そんな子どもを持つ保護者たちは、よその子どもと比較したがりました。

3 人の男の子のぼやけた影
写真=iStock.com/AlexLinch
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「おまえは絵の才能は抜群なのに、国語と算数はどうしてそんなにできないの!」

そういって子どもを責める親もいれば、保護者会で、わが子のしつけのためにもっと体罰を与えてくれるよう教師にたのむ親もいました。親がこうだと、子どもたちもおたがいを比べ、自分よりもすぐれた点を持つ子どもに強い嫉妬心をもつようになります。当然、成績のいいオードリーは、かっこうのうらみの的になりました。

あるとき、一人の生徒が、オードリーにむかって、吐きすてるようにいいました。

「おまえなんか死ねばいいのに! そしたら、ぼくが一番になれるんだから!」

実は、その子は父親から、「おまえはなぜ一番になれないのか」と家でなぐられていたのです。

「死ねばいい!」――その言葉は小二のオードリーの心に深く突き刺さりました。幼稚園に入る前から、心臓に負担をかけないように、死に至るようなことがないように、慎重に生きてきたオードリーにとって、死ねといわれたことは大変なショックでした。