「知能指数が最高レベルであることがわかりました」
オードリーの心の中には、学校では同級生からおかしな目で見られ、先生にさえもきちんと相手にしてもらえない不安がうずまいていました。だからこそ、お母さんには、真剣に自分にむきあってほしかったのです。
「これはもう、わたしが子どもたちといっしょに過ごすほかはない」
「いや、それなら、わたしが仕事をやめて、子どもたちを育てるよ」
同じ新聞社に勤めている唐には、妻のほうが記者として優れていることがわかっていました。実際、李は教育問題から、法律や文化、政治までカバーできる、取材部門でナンバー2のエース記者と目されていました。
「男女は平等であり、母親だからといって、仕事上のチャンスを逃していいということにはならない」
けれども、オードリーも弟の宗浩も、母親が家にいてくれるほうを選びました。こうして母は仕事をやめ、2人の子どもを育てることに専念することになりました。台湾の新学年は9月からはじまります。新学年を前に学校から1通の手紙がとどきました。そこにはこんなことが書かれていました。
「先日、優等生を対象にした知能検査を行いましたが、その結果、唐宗漢くんの知能指数が、最高レベルであることがわかりました。ついては、ギフテッド・クラスのある学校へ転校してはどうでしょう?」
台湾では70年代から設置されている「ギフテッド・クラス」
「ギフテッド」とは、「天から才能を授けられた人」という英語から生まれた言葉で、生まれつき高い知能(IQ130以上が目安)や才能を持つ子どもや若者のことです。
相対性理論で有名なアインシュタイン、Windowsなどを世に送り出したビル・ゲイツ、Facebookの創始者マーク・ザッカーバーグなども、ギフテッドとされます。
しかし、こうした人々は、知能の高さや特殊な才能のせいで、かえって生きづらさをおぼえる人が多いともいわれています。たとえば、学校の勉強についていけない子どもを「落ちこぼれ」と呼ぶことがありますが、その反対に、知能が高すぎて、まわりから浮いてしまう子どもを「浮きこぼれ」とも呼んだりします。小学校一年生のときのオードリーは、まさにこの「浮きこぼれ」でした。
そこで、ギフテッドの子どもや若者たちのための特別な教育制度を設ける国が現れました。日本はまだですが、アメリカやヨーロッパ諸国をはじめ、シンガポールや香港などアジアにもその動きは広がっています。
台湾も、そうした国のひとつで、すでに1973年から、ギフテッド・クラスを設置していました。
当時、その対象とされたのは、①全体として能力の高い児童、②語学や数学など、特定の分野に秀でた児童、③美術、音楽、ダンス、演劇、スポーツなどで才能豊かな児童、でした。ギフテッド・クラスでは、ふつうの授業もありますが、算数や物理、あるいは、工芸やアート、音楽など、興味のあるレッスンや授業を選んで学ぶことができます。
ただ、すべての学校にギフテッド・クラスが設置されているわけではありません。オードリーが通っていた小学校にもなかったので、転校を勧められたというわけです。