35歳の若さで台湾のデジタル担当相となったオードリー・タンさん。小学1年生のときに天才児だけを集めた「ギフテッド・クラス」に転入したが、そこでは「命の危機」を感じるほどの壮絶ないじめを受けることになる。作家・石崎洋司氏の伝記物語『「オードリー・タン」の誕生 だれも取り残さない台湾の天才IT相』(講談社)<第1章オードリーの生い立ち>より一部を抜粋、編集してお届けする――。
祖母と母を困惑させた「異常な学習欲」
小学一年生らしからぬオードリーの知識と学習欲は、実は、家でも悩みの種になっていました。
両親が働いて家にいない昼間、おもに祖母の蔡がオードリーと、4歳年下の弟・宗浩の面倒をみていたのですが、オードリーの風変わりな質問に悩まされていたのです。
「あの子はむずかしい質問ばかりしてきて困る。今日も、とつぜん『太陽の黒点って何?』って聞いてきてね。わたしが答えられないでいると、『おばあちゃんは、ぼくが何を聞いても、なんにもわからない!』って、怒るんだよ。どうしたらいいんだい? もうわたしには面倒をみきれないよ」
母は、オードリーを呼んで、いいました。
「おばあちゃんに、むずかしいことを質問しちゃだめよ。おばあちゃんが子どものころはね、勉強をしたくてもできない時代だったの」
それを聞いて、オードリーはうなだれました。
「ごめんなさい。でも、だったら、質問はだれにしたらいいの? 学校でも、だれもとりあってくれないんだよ」
「お父さんかお母さんにすればいいわ」
両親は、仕事のあいまをぬって、いっしょうけんめいにオードリーの質問に答えました。それでもたりない分は、家庭教師をやとって埋めました。
しかし、それで解決、とはなりませんでした。オードリーは、仕事中とわかっていながら、かまわず母親に電話をかけて質問するようになったのです。ときには、弟が泣いているからと、電話をかけてくることもありました。
母は気がつきました。
「この子は、ただ学習欲と知識欲から質問をしているのではないのだわ」