なぜロシアではクーデターが起きにくいのか

なお、歴史を振り返っても、古くは帝政ロシア時代の1825年に青年将校らが決起した「デカブリストの乱」が失敗して以降、ロシアでは軍によるクーデターはほとんど成功していない。そもそも、内部からクーデターが起きにくいというロシア軍独特の構造がある。FSB(ロシア連邦保安庁)による監視が極めて強いからだ。

FSBは、ソ連時代の1954年に設立された有名なスパイ組織KGBを前身とするロシアの情報機関だが、軍の監視は、KGB時代からの伝統的な任務だ。軍の中に不穏な動きがないか、裏切り者がいないかを、常に軍内部にスパイを潜ませて調べている。

KGBやFSBといえば、若き日のプーチンが所属していたことでも知られる。FSBについては、トップも務めていた。対外的な諜報活動や防諜活動(カウンターインテリジェンス)を担うイメージが強いが、実は身内である軍も監視対象にしているわけだ。

しかもプーチンは大統領に就任すると、情報機関の相互監視を一段と強化させていると見られる。もしクーデターのような不穏な動きを見せれば、たちまち極刑に処せられることは言うまでもない。体制変革に向けて主導的な役割を果たせるような将軍や大佐などの幹部人材はそもそも生まれにくい環境なのである。

もし軍部が何らかの動きを見せることがあるとすれば、それは本当に国家が危機にひんするか、もしくは自分たちの組織の存亡が危うくなったときだろう。

在任が長いほど「代わりの人物」が生まれにくい

ならば、その軍を監視しているFSBが反乱を起こす可能性はないのか。

それも限りなく低いと見られている。軍や官僚など政府内の不穏分子を排除する仕事を担っている以上、自身の組織内部に対しても監視の目を向けているのは当然だ。そもそも職員が互いに監視し合うことを前提とした組織であり、相互不信の精神がなければ務まらない。2~3人が集まって話すだけでも疑念をかけられ、報告の対象になるとの見方もある。これは、KGBから受け継いだ文化の一つでもある。

実際、先に述べたとおり1991年のクーデター未遂事件はKGB議長が首謀者の1人だったが、行動をともにする部下が少なかったのが失敗の一因とも言われている。そもそも上司と部下、トップと組織の信頼関係が存在しなかった証左だろう。