このクーデターが成功したのは、フルシチョフらに独ソ戦の英雄でもあるジューコフ将軍など軍の協力があったためとされている。ベリアは内務省のトップだったため、フルシチョフは諜報ちょうほう機関の協力を得にくかったようだ。

その11年後の1964年には、フルシチョフも後任のブレジネフにより失脚させられた。このときは軍と諜報機関であるKGBのトップ、ウラジーミル・セミチャストヌイ議長の協力が大きかったと言われている。フルシチョフはセミチャストヌイをKGB議長に任命した張本人だが、裏切られる格好になったわけだ。

軍内部の監視構造では、現在のプーチン体制はどうか。政権が発足してから20年以上が経過し、政治体制が比較的安定していることを考えると、参考になるのは90年代ロシアの不安定期より、ソ連時代の安定期かもしれない。

夜道を歩く人の影
写真=iStock.com/AlexLinch
※写真はイメージです

士気が下がっている軍部に“期待”する声もあるが…

ただし、スターリン以降のソ連時代は集団指導体制だったが、今日のロシアはプーチンに権力が一極集中し、独裁体制である。対抗できる権力者、強い野党指導者なども存在しない。したがって軍も治安機関もすぐに担ぎ上げる人物がいない。その意味では、クーデターの可能性はそもそも低いと言える状態だ。

一部には、軍部からの行動に“期待”する声もある。一連の侵攻計画があまりに杜撰ずさんで、ロシア兵に想定外の犠牲が出たことは周知のとおりだ。最前線で戦う身としては、士気も下がり、軍上層部や政権に対する不満も強いと考えられる。いっそ最高司令官さえ消えてくれれば、という発想になったとしても不思議ではない。

しかし、彼らがクーデターを起こす可能性は、今のところ極めて低い。クーデターの可能性が取り沙汰されるたび、セルゲイ・ショイグ国防相などの名前は挙がってくるが、プーチンとショイグはもともと休日をともに過ごすほど親しい関係にある。戦況の悪化を受けて関係が悪化している可能性はあるとはいえ、ショイグがクーデターを起こす可能性は極めて低いのではないか。

また制服組トップのゲラシモフ参謀総長とプーチン、ショイグとの関係についても、プーチンを失脚させる意図を持つほどの大きな対立が生まれているかは不明だ。もっとも、不和が外部に伝わるようではクーデターなど絶対に成功しないだろう。