「忠誠心の競い合い」は組織を劣化させる

【池上】一方で、周囲が挙げて忠誠心の競い合いをしているような組織も、違う意味で心配です。そういうところでは、往々にして首脳陣の覚えはめでたいけれど、能力はイマイチの人物にポストが禅譲される結果、どこかの国の大企業のように、次々に組織が劣化して駄目になっていく。自分のいるのがそういう場所だと気づいたら、真剣に転職を考えた方がいいかもしれません。

【佐藤】派閥抗争に関しては、何度も言いますが、上がどうなっても大丈夫なように、きちんと保険をかけておくことです。

【池上】「私は出世には興味がありません」というスタンスで中立を保っていることが、最強の保険になることもあります(笑)。自分の属している組織の「風土」をしっかり理解しておくことも大事ですね。

【佐藤】とりあえず長期安定なのか、それとも戦国時代に入っているのか。

【池上】そうです。もし、上が失脚したら、くっついていた人間たちも丸ごとラインから外されるというような組織ならば、特定派閥にどっぷり肩入れするのは、危ないことです。

田中角栄には「利害関係のない友人」がいなかった

【佐藤】反面教師として田中角栄から学ぶべき最大のものは、「友達を作りなさい」ということではないでしょうか。例えば、帝大を出て高等文官試験の外交官に受かっているような人物が友達にいたら、日中国交正常化に前のめりになった時、「田中君、君の行こうとしているのは、鉄火場(プロ同士が相まみえる鉄火場に素人が入ってくるようなもの)なんだよ」とアドバイスしてくれたかもしれません。検察やメディアに真の友人がいたら、自分の身を守る様々な情報をもっとキャッチすることができたと思うのです。

池上彰・佐藤優『組織で生き延びる45の秘策』(中央公論新社)
池上彰・佐藤優『組織で生き延びる45の秘策』(中央公論新社)

【池上】真の友人というのは、利害関係のない人たちということですね。

【佐藤】そうです。残念なことに、社会に出てからの人間関係は、どうしても利害が絡んできます。重要なのは、学生時代に築いた無垢むくの関係です。角栄も中央工学校を卒業して建築事務所で働いている時には、業界にそういう友人がいて、何かあれば助けてくれたと思うのです。しかし、彼はその世界から飛び出して全く別のゲームに参加する道を選び、そこで頭角を現していく。気が付くと、周りは抜き差しならない利害で結ばれる人間だらけになっていたわけです。

【池上】そのように考えると、言葉は変ですが、かわいそうな人間だった感じがしますよね。

【佐藤】かわいそうですよ。無理を重ねて巨大派閥を作り上げたのに、最後はみんなが寝返って、それこそ味方は家族だけみたいになってしまったのですから。

【池上】利害関係のない友人をたくさん作れ。学生時代の友達を大切にしろ。大事な教訓だと思います。

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