世間もメディアも教団の被害者たちに冷ややかだった
山崎や飯干たちが「脱会」して、統一教会の悪徳商法や、信者からすべてを吸い上げるシステムを断罪したが、この国から教団を一掃できたわけではなかった。
彼らは、宗教名を変え、トップを挿げ替えて、同じことを繰り返していたのに、一部のジャーナリストや被害者たちを救済している支援団体、弁護士を除いて、この教団への関心を持続させず、告発もしてこなかった。
今回の事件の責任の一端は、メディアにもあると自覚すべきであろう。
山上容疑者の母親のような悲惨なケースは他にもまだある。その人たちの親族が統一教会に恨みを抱き、同じような凶行に走らないといい切れるだろうか。
山上容疑者は、教団トップを狙うのは難しかったから、教団と関係があると思われた安倍元首相を狙ったと供述している。だが、彼のいい分に私は首を傾げる。
山上はツイッターなどに心情を吐露したメッセージをいくつも出している。
「21年6月7日には、『根こそぎ金を持ち出し親戚に無心し家事は放棄し何日も家を空け、聞けば「世界を救う神の計画の瀬戸際」だと言う。そんな宗教もある。もちろん統一教会だが』と記した」(朝日新聞デジタル7月19日 7時00分)
不幸だった子ども時代、母親への思い、教団への恨みなどを、誰かに聞いてもらいたかったのだろう。しかし、世間は彼のいい分にほとんど耳を傾けてくれず、冷ややかだった。
第2、第3の山上事件が起こる可能性がある
山上容疑者が、母親の不実を詰り、自分や自殺した兄がそのことでいかに惨めな人生を強いられたのかを世に訴えたいと考えたとしたら。もしそれが目的だったとしたら、安倍元首相には極めて失礼ないい方にはなるが、彼は目的を十分に果たしたと思っているのではないだろうか。
平和と家庭の幸福を願っているかのように装う統一教会は、他人の不幸につけ込み、心の中に入り込んでマインド・コントロールするだけではない。長い間、政治の世界にも広く深く根を張り、金と信者たちを使って政治家たちを操ってきたことも知られている。
日本の事件史の中で初めてといっていい、個人的な恨みで要人を暗殺する凶悪なテロ事件を機に、メディアは総力を挙げてこの教団の闇を暴き、マインド・コントロールされている信者たちを救い出し、政治家にはこの教団とのパイプを断ち切れと求めなくてはいけない。
そうしなければ、今後、第2、第3の山上事件が起こることになる。私はそう考えている。