「性格や行動、コンプレックス」を把握して忍び寄る

元信者の一言がおかしいと感じて、旧約聖書のヨブ記を読み始める。そしてとにかく話を聞いてみようと思い立つ。

「私は原理講論で使われている聖句を、聖書を通してじっくりと読んでみた。そして、統一原理が引用している聖句がいかにねじまげられて使われているかを理解し、統一教会の教理がどれほどずさんで、でたらめであるかを検証したのである。そしてその上で、統一教会自らが出版した膨大な量のパンフレットや書籍などを較べた結果、その中にある数多くの矛盾や嘘を、はっきりとこの目で確かめたのだ」

数多くの元信者にも会った。何億という金をだまし取った女性もいた。そしてこの教会の恐ろしいところは、「彼等はただひたすら神を信じ、ここで諦めれば先祖も家族も皆地獄に落とされるという呪縛に捕われている。そしてその教えは、一気にその人を虜にするのではなく、徐々にその人の性格や行動、そしてコンプレックスや利用価値にあわせて、じわじわと忍び寄ってくる」と書く。

彼女は教会幹部たちに問う。「原則として信者同士の結婚と言われている合同結婚式によって、どうして日本の信者の女性が統一原理のトの字も知らない異国の男性に嫁がされなくてはならないのか?(中略)霊感商法は関係ないと公にコメントを続けながら、なぜあんなに多くの元信者が統一教会の名のもとで経済活動を行ったと証言しているのか?」

奪還に成功した飯干氏と旨酒を呑み交わしたのは、この手記が出た頃だった。

「都合の悪いことは、全て信者の責任にする」

山崎浩子を脱会させたのは、彼女の姉だった。子供もいる主婦だった姉は、山崎をマンションに匿い、仕事を辞めてまで協力してくれた叔父叔母と共に必死の説得を続けた。

長い話し合いの末に、彼女を翻意させたのは姉が連れてきた牧師だった。牧師に手渡された『福音主義神学概説』を読み、統一教会の信仰は本当のキリスト信仰とはかけ離れていることを知る。飯干同様、あまりにもいい加減な聖書の引用、文鮮明師の美談、統一原理のルーツも真っ赤な嘘だった。牧師はこういう。「仕方のないことなんです。あなたたちはマインド・コントロールされてたんですから」

そしてこう書く。「統一原理が正しければ、経済活動も、珍味売りも、正しいことであるはずだ。だとしたら統一教会は、経済活動も珍味売りもインチキ募金も統一教会でやっていると言うべきである。それが救いなんだと訴えるべきだ。統一教会は絶対に表に出ない。前面に立たない。そして都合の悪いことは、全て信者の責任にする『とかげのしっぽきり』みたいなことは素晴らしい宗教のやることではないと思う」(週刊文春1993年4月29日号「統一教会も私の結婚も誤りでした」)