「日本とアメリカはともに相対的に衰退している」
安倍氏は外交に不可欠な対人関係を構築する能力に秀でている。16年11月、問題児のドナルド・トランプ氏が米大統領選に当選するや否や、安倍氏はトランプタワーに駆けつけ、ゴルフクラブを贈呈、いち早く信頼関係を構築した。まだ正式に政権が交代する前に次期大統領と会談した行動は一部から顰蹙を買った。
しかし、これで「シンゾー・ドナルド」の蜜月関係が築かれていなかったらアジア太平洋もロシア軍のウクライナ侵攻のような安全保障上の危機に見舞われていた恐れは十分にある。トランプ氏は安倍氏の訃報に接し「彼は日本を愛し、大切にする人であった。彼のような人は二度と現れないだろう」と語った。
ドイツのアンゲラ・メルケル首相(当時)は国内総生産(GDP)の2%という北大西洋条約機構(NATO)の防衛費目標を無視し、バルト海の海底を通ってロシアの天然ガスをドイツに送るパイプライン計画「ノルドストリーム2」を進め、トランプ氏を激怒させた。エマニュエル・マクロン仏大統領に至っては「NATOは脳死状態」と呼び、綻びを露呈させた。
ジョー・バイデン米大統領は米欧分断の修復に努めたものの、プーチン氏の領土的冒険主義を止めることはできなかった。ロシア産原油・天然ガスに依存する独仏伊の欧州主要国はロシアがウクライナに侵攻しても、いずれは妥協するとプーチン氏に思わせてしまったからだ。防衛・安全保障の要は安倍氏が実践したようにスキをつくらないことだ。
米紙ニューヨーク・タイムズで知日派のデービッド・サンガー記者は「安倍氏が、アメリカが戦後制定した日本の現行憲法に基づく制約を緩和しようとしたのは、日本がかつてないほど同盟国のアメリカを必要としていることを認識していたからだ。同盟を結ぶということは相互に防衛の義務を負うということだ」と記している。
「安倍氏は、日本政治に詳しい米マサチューセッツ工科大学のリチャード・サミュエルズ教授が言うように『日本とアメリカはともに相対的に衰退している』ため、その才能と資源を組み合わせなければならないことを知っているようだった。そして『この関係はうまくいかなければならない』と安倍氏は結論付けた」と結んでいる。日本も戦力不保持をうたった憲法9条を変える時が来ている。