14年7月、安倍氏は一定の条件下で集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更を決定した。日本は世界最強の軍事大国・アメリカと同盟を結び、その「核の傘」に守られている。集団的自衛権が行使できないのに、どうして日米同盟が結べたり、イラクへの自衛隊派遣、インド洋での補給活動、ソマリア沖の海賊対処行動に参加したりできるのか。

日本の憲法・安全保障専門家でもない限り、説明するのは難しい。集団的自衛権の限定的行使容認は現行憲法下でノリシロがなくなってしまった解釈を根本的に見直し、日米同盟をさらに深化させる狙いがあった。「他国への武力攻撃でも、わが国の存立を脅かすことも現実に起こり得る」として厳しい要件を課した上で集団的自衛権の行使を限定的に認めた。

集団的自衛権の限定的行使容認の意義とは

防衛相として当時、国会答弁に当たった中谷元首相補佐官(国際人権問題担当)は昨年10月、筆者のインタビューに「集団的自衛権の行使を限定的にでも容認したことで、周辺国とさまざまな同盟や条約を交わすことが可能となるため、今まではなかった大きな外交カードを手に入れた」と評価している。

「防衛の支障となっている憲法解釈をしっかり定めることであらゆる事態に切れ目のない対応を行えるようにする。日本の防衛に資する活動をしている外国軍艦を守れるようにする、海上自衛隊によるインド洋での給油活動を可能にしたテロ対策特別措置法を恒久法にする、国際平和を脅かす事態が起きた時に自衛隊派遣に向け各国との調整を迅速にできるようにしておく必要がある」と中谷氏は強調した。

バラク・オバマ米大統領(当時)が土壇場でシリア軍事介入を断念したのを見て、ソチ五輪直後の14年2月、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナ・クリミア併合を強行、東部紛争に火をつけた。安倍氏は北方領土問題や平和条約の締結についてプーチン氏と27回も会談を重ねる一方で、足元では防衛・安全保障を着実に築き上げてきた。

プーチン氏は安倍氏の遺族にあてた弔電で「安倍氏は傑出した政治家で、両国の良き隣人関係の発展に多くの功績を残した。安倍氏の死はかけがえのない損失だ。この重く、取り返しのつかない損失に直面しているご家族の強さを祈ります」と伝えた。プーチン氏にとってはウクライナ侵攻で敵対する西側との数少ない対話チャンネルの一つを失った。