増税分は大企業と富裕層減税の穴埋めに消えていた

以上のような所得税・法人税の政策減税、そして景気悪化による自然減収などにより、地方税分を含めた法人三税の累計減収額は、1989年度からの31年間で298兆円、所得税・住民税の累計減収額は275兆円に達し、合計で573兆円にのぼる。

同時期の消費税収の累計は、地方消費税を含め397兆円だから、これまでの巨額の消費税収分は、すべて法人税と所得税・住民税の減税による減収の穴埋めに消えてしまったといえる。

伊藤周平『消費税増税と社会保障改革』(ちくま新書)
伊藤周平『消費税増税と社会保障改革』(ちくま新書)

消費税は、社会保障のための財源ではなく、法人税や所得税・住民税(つまりは、大企業や富裕層)の減税の財源になっているのだ。結局、大企業や高所得者の税負担(法人税・所得税)が軽減され、中低所得者の家計負担(消費税)に転嫁されただけといえる。

ちなみに、所得税・法人税の減収額の総計は、この間の国債残高の増加額(711兆円)の6割を占め、社会保障関係費の増加(241兆円)をはるかに上回る。つまり、現在の財政赤字の原因は、社会保障費の増加にあるというよりは、大企業や富裕層に対する減税を繰り返し、それを賄うための財源を確保せず、消費税と公債に依存する仕組みをつくりあげてきた歴代政権の失策、とくに2013年以降の安倍政権の経済政策(「アベノミクス」といわれる)と労働分野の規制緩和を進めてきた雇用政策の失敗にあるといえる。

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