「久しぶりの財務省OB総裁」が示す意味
財務省が失地を奪還しつつある。政府は5月27日、国際協力銀行(JBIC)の総裁に林信光副総裁(65)が就く人事を了承した。林氏は80年東大法卒で、旧大蔵省(現財務省)に入省し、理財局長まで上り詰めた。この間、世界銀行グループの理事も歴任した。14年の国税庁長官を経て、16年にJBIC専務に転じ、18年から副総裁を務めている。
JBICは1950年に、当時の大蔵相・池田勇人によって設立された「日本輸出入銀行」を前身とする政府系金融機関で、大蔵省の有力天下り先として長年、事務次官経験者などが総裁を務めてきた。
しかし、小泉純一郎首相(当時)による民営化の流れを受け、2012年に奥田碩氏(元トヨタ自動車社長・会長)が総裁に就いて以降、渡辺博史氏(元財務官)を除き、民間出身が総裁を務めてきた。とくに現在の前田匡史氏はプロパー初の総裁だ。このため前田氏の後任も生え抜きから登用されるのではないかとの見方もあったが、最終的に財務省OBの昇格で決着した。
コロナ禍、ウクライナ侵攻を機に復権しつつある
財務省がかつて「天領」と称された政府系金融機関トップの座を奪い返したことに、政界から異論は出ていない。そればかりか、JBIC以外にも政府系金融機関トップに財務省OBが復権しつつある。財務省は、政界や世論の天下り批判を受けて政府系金融機関トップへ有力OBを送りこむことをこれまで自粛してきた。
ただ、一歩退いた役員ポストに座り、虎視眈々と失地回復を狙ってきた節がある。そのトップ復権がいま実現されようとしている。背景には、「新型コロナウイルス感染拡大やロシアによるウクライナ侵攻に伴い、重要性が増す財政出動と政府系金融機関の投融資の存在がある」(メガバンク幹部)とされる。
翻って、政府系金融機関をめぐっては05年の小泉政権以降、民営化が最大の焦点になってきた。財務省が長い時間をかけて目指してきたのは、この民営化路線を“未来永劫先送りする”という、事実上の「民営化撲滅」だった。
最初の「神風」は08年秋に吹いたリーマンショックだった。続いて11年3月の東日本大震災が政府系金融機関を生き返らせた。「経済危機はまさに政府系金融機関にとって神風だった」(与党幹部)と言っていい。
実際、政府系金融機関は民間金融機関がリスクに尻込みする中小企業向け融資にも果敢に突っ込んだ。「民間金融機関よりも政府系金融機関のほうが頼りになる」(都内の中小企業経営者)という声が多数聞かれ、投融資残高は急増した。