天下り財務官僚がぞくぞくと経営陣の仲間入り

政府系金融機関の先祖返りを背景に、それまで民間出身者で埋め尽くされていた経営陣に天下り官僚がぞくぞくと復権していった。日本政策金融公庫では08年10月に元帝人会長の安居祥策氏が総裁に就いたが、13年10月に元財務事務次官の細川興一氏が副総裁から総裁に昇格し、続いて同じ元財務事務次官の田中一穂氏が17年12月から総裁に就いている。

日本政策投資銀行では、08年10月に元伊藤忠商事社長の室伏稔氏、11年6月に元富士銀行頭取の橋本徹氏と民間企業出身者が社長に就いた後、柳正憲氏、渡辺一氏とプロパー社長が2代続き、この6月末の株主総会を待って副社長の地下誠二が3代目プロパー社長に昇格する。

しかし、「日本政策投資銀行には元財務事務次官の木下康司氏が会長に就いており、事実上のトップと見られている。新型コロナウイルス感染拡大を受けた資本性ローンの供給でも、木下氏と財務省同期で日本政策金融公庫の田中一穂総裁が気脈を通じて政界対応を図っていた」(メガバンク幹部)という。

そして国際協力銀行(JBIC)では、奥田碩総裁の後に、元財務官の渡辺博史氏が副総裁から総裁に昇格した。ただ、その後、16年6月に元住友銀行常務の近藤章氏が総裁となり、次いでJBICプロパーの前田匡史氏が総裁に就いた。これで財務官僚の復活は難しいのではないのかと見られていた。しかし、そこに思わぬ落とし穴が待っていた。

国会議事堂
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前田氏主導の「サハリン2」も先行きが怪しい

ロシアによるウクライナ侵攻である。このロシアの蛮行に対して日・米・欧は協調して制裁に動いており、その一環で、日本の商社が出資する極東ロシアの石油・天然ガス開発事業「サハリン2」の先行きが懸念されている。

すでにサハリン2から撤退を決めた英石油大手のシェルは中国の石油会社などと売却交渉に入っていると報じられているが、サハリン2に出資する日本の三井物産(12.5%出資)、三菱商事(10%)は現時点では撤退せず、日本への安定供給を支える方針を変えていない。

このサハリン2はじめロシア関連事業に日本が突っ込む先導役を果たしたのがJBICの前田匡史氏だった。JBICは資金供給で商社のサハリン2の権益確保を後押ししたとされており、「サハリン2のプロジェクトファイナンスは俺がまとめた」というのが前田氏の自慢の種だった。それがいま逆回転しはじめたことで、後任人事にも影響を与えたことは間違いない。