リーマンショックでは15兆円規模を資金供給

とくにリーマンショック直後から日本政策金融公庫と日本政策投資銀行がタッグを組んだ危機対応融資には、日産自動車(500億円程度)、三菱自動車(同)、富士重工業(100億円程度)、などの日本を代表する企業が殺到した。

結果、危機対応融資の当初枠1兆円は、09年3月末までの4カ月弱で底をつくことが確実となったため、財務省は財務相の判断で予算額を最大1.5倍まで拡大できる「弾力条項」を発動し、年1兆円の予算枠に5000億円を追加したほどだった。そして、日本政策投資銀行による資金供給枠は、低利融資やCP(コマーシャルペーパー)、さらに社債購入まで拡大され、最終的には資金枠は保証も含め15兆円規模にまで膨れ上がった。

さらに政府は、09年1月に、公的資金を活用して一般企業に資本を注入する制度の創設を決めた。金融危機により一時的に業績不振に陥った企業を国が信用補完し、経済の安定化を狙うもので、産業活力再生特別措置法の認可を受けた企業を対象に、日本政策投資銀行や民間金融機関などの指定金融機関が企業の優先株取得などで資本支援する仕組みだ。

「究極のモラルハザード」民間金融機関は憤慨するも…

この企業への資本支援については、仮に出資金が焦げついた場合も、政府が日本政策金融公庫を通して5~8割程度を損失補塡ほてんすることになっていた。日本政策投資銀行の発言力が強まったのはいうまでもない。そして、極め付きは東日本大震災に伴う東京電力の経営危機だ。福島第一原発事故により原発再稼働が不透明な中、東電の経営を実質的に支えているのは日本政策投資銀行に他ならない。政策投資銀行はエネルギー政策を人質に取ったようなものだ。

そして最大の分岐点は2014年のアベノミクスで訪れた。アベノミクスの「三本の矢」のひとつ、成長戦略の中で、「企業への中長期的な資金供給についての環境整備」が取り上げられた。その裏テーマは「政府系金融機関の完全民営化先送り」だった。「有識者会議で公的金融と民間金融がそれぞれ果たすべき役割についても議論されたが、最初から結論は出ていた」(自民党関係者)という。「今後も政府系金融機関が果たすべき役割は大きい」というのが政府・与党内のコンセンサスだった。

地方の中小企業など支援企業へ資金を流したい政治家と天下り先を維持・拡大したい官僚の思惑が一致した格好だった。「究極のモラルハザードが生じている」と民間金融機関幹部は憤慨したが、民営化先送りの流れは変わらなかった。