マーケティング最強事例① ケンタッキー・フライドチキン

ケンタッキーフライドチキン(以下、KFC)は「今日、ケンタッキーにしない?」のプロモーションと商品展開によって、消費者の「日常のニーズ」を取り戻して再成長を実現した。もともと、1970年の日本進出の当初、売上に苦戦していたKFCを軌道に乗せたのは「クリスマスにはフライドチキン」のキャンペーンだった。

KFCが「クリスマスにフライドチキンを食べる」という日本だけの習慣を創った背景には、こんな逸話がある。KFC1号店の店長が近くの幼稚園から「クリスマスにチキンを買ってパーティーをするのでサンタ役をやってほしい」と頼まれた。売り上げにつながるため、店長は喜んでサンタの衣装を着て、フライドチキンの箱を手に、幼稚園で踊りながら歩き回った。それが評判を呼び、あるとき、テレビのインタビューを受けることになった。そこで「アメリカではクリスマスにチキンを食べるのか?」と聞かれ、本当は「七面鳥を食べる」と知っていながら、つい「そうです!」と答えてしまった。これが、「クリスマスにはフライドチキン」が日本中に発信されるきっかけになったという。

ケンタッキー・フライド・チキンのバーレルと食卓
写真=iStock.com/pjohnson1
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1974年から大々的にクリスマスキャンペーンを展開するようになり、クリスマスなどの特別な日にはKFCのチキンを大人数で食べることが定番化していった。この「特別な日のニーズ」はKFCの大きな強みになったが、同時に、特別な日以外のニーズをつかめずに伸び悩む原因にもなっていった。

エブリディ・ブランドに導いた「今日、ケンタッキーにしない?」

KFCのイメージは「おいしいけど、ちょっと高い」「みんなで食べるもの」に定着していき、「ランチに気軽にチキンを食べたい」「1人で食べに行こう」といった日常のニーズは忘れられつつあったのだ。そうした固定観念を打ち破り、海外と同じように日本でも「エブリディ・ブランド」になるため、新しいニーズの提案に踏み切ったのが、2018年から実施された「今日、ケンタッキーにしない?」のプロモーションだった。

ターゲットは、「日常のニーズ」「若者のニーズ」「個食のニーズ」だ。特別な日だけじゃなく、家族連れだけじゃなく、いつでも誰でも気軽にKFCが食べたくなる。このニーズを新提案するため、「今日、ケンタッキーにしない?」のシリーズ広告が展開された。等身大の若者として俳優の高畑充希さんが起用され、気取らず、おいしそうに、大胆にチキンにかぶりつく姿が強調された。家族でも、友人グループでも、1人でも、平日の仕事の合間のランチでも、気軽に「日常使い」をする様子が描かれた。シリーズを通して、あえて音楽やフレーズを統一し、一貫性のあるパターンで広告を展開することで、消費者の心にメッセージを浸透させていった。

「気軽にチキンを食べたい」を満たした500円のワンコインメニュー

広告を見て「今日、ケンタッキーにしてみよう」と思ってKFCに行った消費者が、「意外に安い!」「お得でおいしい!」と驚くように、新しいランチメニューも展開した。1人でも食べきりやすいメニューや500円のワンコインメニューを強化し、またランチの提供時間を10~16時に長く設定して、新しいKFCを体験してもらう機会づくりを徹底した。こうした仕掛けが実を結び、KFCに固定観念を持っていた消費者や、実は初めて利用する若者たちの価値観を更新することができた。

いつでも誰でも気軽に「チキンが食べたい」と思わせ、そのニーズを新メニューで満たす。まさに、新しいニーズを自ら創って、自ら満たす「最強パターン」である。満足した消費者はクチコミを広めるとともに、リピーター化していく。その好循環でKFCは売り上げを大きく向上させ、広告業界で「KFCのような広告がしたい」という声が続出するほどの成果と評判を得ることに成功した。