日本のスポーツブランドの雄・アシックスの業績が上昇している。ヒット商品のひとつが「日の丸版の厚底シューズ」だ。6月にはその最新作を発表した。同カテゴリーで先行するナイキにここ数年は後塵を拝しているが、「とにかく勝てるシューズを作ってくれ」と社長自らが陣頭指揮したプロジェクトが昨年軌道に乗り始め、「2025年には我々は1位になる」と語る自信はどこからくるのか。スポーツライターの酒井政人さんが取材した――。

アシックス社長「2025年にはミッションを実現したい」

「頂上から攻めよ」

写真提供=アシックス
廣田康人代表取締役社長CEO兼COO(写真提供=アシックス)

これは、わが国のスポーツブランドの雄アシックスの創業者・鬼塚喜八郎(1918-2007年)の口癖だ。今、その“頂上”に風雲急を告げる動きがある。ロードレ―スの景色を一変させたアメリカ西海岸に本社を持つナイキに対して同社は8904人(連結)の社員全員で本気で挑んでいる。

6月14日から順次発売するランニングシューズ「METASPEED+」シリーズ。先日、これのローンチイベントが都内で開催された。その冒頭で挨拶した廣田康人代表取締役社長CEO兼COOはいつも以上に肌ツヤが輝き、その言葉は自信と刺激に満ちていた。

「本格的にリアルイベントが戻ってまいりました。そのなかでアシックスのミッションはパフォーマンスランニング及びレーシングカテゴリーでナンバーワンブランドになることです。2020年は反転攻勢、2021年は持続的成長を可能とするビジネスの基盤づくりをテーマに掲げ、特に商品の開発に注力してまいりました。2022年以降はこれまで築いてきた基盤をもとにさらに躍進していきたいと考えております。そして2025年には我々のミッションを実現したい」

1980年に三菱商事に入社。代表取締役常務執行役員などを歴任した後、2018年3月にアシックス代表取締役社長(COO)に就任し、2022年3月からはCEOも兼ねている。さすがは43歳にして三菱商事の広報部長に抜擢されただけはある。シンプルで強く言い切ったメッセージは鮮烈だった。

アシックスは日本が世界に誇る名ランナーの脚を支えてきた特別なブランドだ。かつての箱根駅伝のシェアも当然、同社が常にナンバーワンだった。過去の詳細データはないが、2017年大会は出場210人中、アシックスが67人(31.9%)でトップだった。

しかし、その後は厚底シューズを投入したナイキが年々シェアを拡大していく。2021年大会は出場210人中201人がナイキで出走した一方で、アシックスはまさかの0人。箱根路から姿を消したことになる。それでも2022年大会で盛り返す。0人から一気に24人までシェアを取り戻したのだ。