「口呼吸」が口腔内細菌を大増殖させる

ところで、なぜ舌の位置が正しい位置にないと、口腔内の細菌が増えるのでしょう?

それは、舌ポジションが本来の位置からずれると、口がぽかんと開いた状態になり、「口呼吸」になってしまうからです。

口呼吸を続けていると、口の中が乾燥しやすくなります。乾燥すると、食べカスが歯にこびりついて落ちにくくなり、それをエサにして口腔内細菌がたちまち増殖します。

口呼吸をする人の口臭が強くなるのはこのためです。こうして増えた口腔内細菌が歯周病などを引き起こし、私たちの脳の老化を加速します。

私たち人間は本来、「鼻」で呼吸をする生き物です。

ヒトは乳児のときに、「口」から栄養を摂取すること、そして「鼻」で呼吸をすることを学びます。「口」は栄養を摂取する器官、「鼻」は呼吸をする器官なのです。

呼吸をするための器官である「鼻」には、外気から体を守るための機能が備わっています。例えば、鼻毛や鼻粘膜に生えた線毛などにより、ホコリ、細菌、ウイルス、カビなどをブロックする「空気清浄器機能」。

空気を湿らせて免疫機能を高める「加湿器機能」(鼻の「空気清浄器機能」をすり抜けて外から侵入してきたウイルス等の多くは湿気を嫌います)。さらに、外から入ってきた空気を暖める「エアコン機能」。暖かい空気を肺に送ることで肺の免疫力を高めます。

私たちが1日に吸う空気の量は1万リットル以上。呼吸回数は2万回以上になります。これだけの空気を外から体に取り込んでも健康でいるためには、こうした「鼻」の防御機能が不可欠なのです。

一方、栄養を摂取する器官である「口」には、こうした機能がほとんど備わっていません。そのため、「口呼吸」をすると、無濾過のホコリ、細菌、ウイルス、カビなどをそのまま体内に取り込むことになります。

それと同時に、口内の乾燥が起こり、結果、口腔内細菌が大増殖するのです。

前頭葉に負荷をかけ、認知症リスクを高める「口呼吸」

さらに近年、「呼吸」と「脳」の関係について、興味深いことが指摘されるようになりました。

2013年に発表された歯科医師である佐野真弘氏などの共同研究の結果から、習慣的に口呼吸をしている人は、鼻呼吸の人に比べて、脳の前頭葉の活動が休まらず慢性的な疲労状態に陥りやすくなることが明らかになったのです。

口呼吸を続けると、前頭葉に負荷がかかって、睡眠障害や注意力の低下が起こり、最終的には、学習能力や仕事の効率を低下させると考えられています。口呼吸が前頭葉の機能低下を引き起こすのです。

口呼吸による前頭葉の機能低下は、認知症につながります。通常、認知症における脳の機能低下は前頭葉から始まって、側頭葉機能の低下を招きます。

現在、日本の認知症患者は462万人いるとされていますが、その前段階の「前頭葉機能低下(早期認知症)」と診断されている方はさらに400万人いると推定されています。つまり、口呼吸を続けていると、認知症予備軍になる可能性が高いのです。

口呼吸が慢性化すると、歯周病菌が増えて認知症リスクが高まりますが、それだけでなく、前頭葉機能の低下を介して脳の老化が加速することもあります。