歯周病患者の口臭は、法規制レベル

初期段階では自覚症状に乏しい歯周病ですが、ある程度進行すると、いくつかの特徴が現れるようになります。そのひとつが「口臭」です。

歯周病を発症している人は、その口から、腐敗臭がします。これは「メチルメルカプタン」という原因物質が放つニオイです。

口の中から、生臭いような、魚や野菜が腐ったようなニオイがしていたら、歯周病を発症している可能性があります。

このメチルメルカプタンは、卵の腐ったようなにおいとされる硫化水素よりも、さらに臭気が強烈で、環境省が定めている「大気汚染防止法」「悪臭防止法」でも規制されているほどです。

「おじいちゃん、お口くさい」の8割は歯周病

強すぎる口臭は、人間関係にまで影響を及ぼすことがあります。

かつて「おじいちゃん、お口くさい!」という入れ歯洗浄剤のテレビCMがあったのを覚えていますか? あのCMでは、口臭の原因は入れ歯の汚れであると設定されていました。

実際のところ、「口臭」には、食べたものだったり、ホルモンの変化だったり、内臓疾患だったりとさまざまな原因があります。ですが、原因の8割は歯周病によるものだというデータもあります。

高齢者の口臭というのは、入れ歯のせいでも加齢臭でもなく、歯周病に原因がある可能性は非常に高いと思います。

私のクリニックの84歳の男性患者、Eさんのお孫さんは、以前はEさんと一緒に車に乗るのを嫌がっていました。車内にこもるEさんのニオイがとても不快だったそうです。

加齢臭だと思ってあきらめていたそうですが、Eさんが月1回、歯科衛生士さんによるケアを受けるようになると、このニオイはすっかりなくなりました。加齢臭だと思っていたものも、実は口臭だったのです。今ではお孫さんが、Eさんとの同乗を嫌がることはなくなりました。

医療現場で気づいた「口臭=寝たきりのニオイ」という事実

ちなみに、私のクリニックでは、開業当初から、訪問診療も行っています。

その際は、業務提携している歯科衛生士さんにも必ず入ってもらってきました。

ところで、寝たきりの認知症患者さんがいるお宅には、決まって独特のニオイがあるのをご存じですか?

ご家族の方が頑張って、患者さんの排泄物を始末して部屋を清潔にしても、患者さんの体を洗っても、なぜかこのニオイだけは消えません。

けれど、歯科衛生士さんが患者さんの口腔ケアを行うと、このニオイがたちどころに消えました。

つまり、寝たきりの患者さん特有のニオイとは、「口臭」だったのです。

実はこの、「口臭=寝たきりのニオイ」という気づきが、私が「歯」と「脳」の関連性を意識するようになったきっかけでした。

前述したとおり、「口臭」の原因の8割は歯周病によるものと言われています。

その後、色々な医療データを調べていくうちに、「口臭=寝たきりのニオイ」という訪問診療の現場で得た感触が、本当に正しかったことがわかりました。