「自然水」ではなく「天然水」

サントリーが同ブランドを発売したのは31年前の1991年だ。

「発売時は『サントリー 南アルプスの天然水』という商品名でした。テレビCMでも山や清流という自然を映し、南アルプス天然水をリズミカルに連呼してきました」

かつて流れていたCMカット
かつて流れていたCMカット(写真提供=サントリー食品インターナショナル)

当初は「世間の水より、南アルプスの天然水」という、同社らしいひねりで訴求したが、やがて「山の神様がくれた水」と自然への畏敬の念を打ち出した。日本を代表する俳優・大滝秀治さんの演技やナレーション、歴代の“南アルプス少女”を覚えている人もいるだろう。

「サントリー天然水」を発売する前は「山崎の名水」(1983年)や「サントリー南アルプスの水」(1989年)という商品を発売していた。

同社グループの看板事業であるウイスキーやビールも名水あってこそ成り立つ。もともと水源への意識は高かったが、天然水を発売して以来、年々社内の意識も高まっていった。

ちなみに「天然水」という言葉もサントリーが一般的にしたという。ナチュラルミネラルウォーターを直訳すると「自然水」だが、それを天然という言葉に置き換え、訴求した。

南アルプス白州工場周辺の山々
写真提供=サントリー食品インターナショナル
南アルプス白州工場周辺の山々

平成元年から約38倍に拡大した水市場

飲料水市場は、この30年で急拡大した。主な理由は消費者の健康志向と備蓄意識だ。

業界団体の日本ミネラルウォーター協会の調査結果から、平成元年(1989年)→平成19年(2007年)→令和3年(2021年)の生産量を比較すると、下のようになっている。

「11万7279キロリットル」(1989年)
(国内生産10万1000キロリットル+輸入1万6279キロリットル)

「250万5067キロリットル」(2007年)
(国内生産192万4258キロリットル+輸入58万809キロリットル)

「444万1949キロリットル」(2021年)
(国内生産415万4338キロリットル+輸入28万7611キロリットル)

日本ミネラルウォーター協会調べ/輸入資料は財務省関税局 日本貿易統計

平成元年に比べて、生産量は約38倍も拡大したのだ。

興味深いのは2007年に構成比で23.2%を占めていた輸入飲料水が、2021年には同6.5%に落ち込んだこと。かつて人気だった海外ブランド「ボルヴィック」は2020年末で国内販売を終えた。安心・安全の視点からも国内産の水への支持が高いようだ。

実は、大災害が起きると飲料水の数字は伸びる。生産量が300万キロリットルを超えたのは2011年からだ。

「この年に東日本大震災が発生し、備蓄意識が高まったのです。水は常備すべきライフラインと認知され、買って大半を保管する消費者が増えました。2020年からのコロナ禍もそうですが、社会不安になると大容量の飲料水が売れる傾向にあります」