いきなりの「全土制圧作戦」はやはりプーチンの意向か

米国側の発言等の中に、今回の軍事行動を起こすに当たり保安庁(FSB)や軍部からプーチン大統領に対して正確な情報が上がっていなかった可能性があるとの指摘がある。側近がプーチン大統領に聞き心地の良い情報だけを上げるようになってしまったということである。

倉井高志『世界と日本を目覚めさせたウクライナの「覚悟」』(PHP研究所)
倉井高志『世界と日本を目覚めさせたウクライナの「覚悟」』(PHP研究所)

そうかもしれないが、他方もう一つの見方がある。それは軍や情報機関が、ウクライナ全土をいきなり制圧するのではなく、ドンバスの拡張を中心とする作戦案を提示したのに対しプーチン大統領はこれを認めず、一気呵成かせいにやらなければ駄目だとして今回の緒戦の作戦構想に無理矢理持っていったという見方である。

筆者はこの後者の見方に強く惹かれる。というのは、今回の緒戦で3月中旬過ぎまでにはすでにキーウ攻略は困難ということが明らかになっていたが、当初の作戦が功を奏しなかった場合に同じ目的(キーウの攻略)を達成するための代替措置が準備されていたようには思えないからである。

自分こそ誰よりも妥当な判断ができるという確信

国防省、参謀本部がプーチン大統領に作戦案を提示していたとすれば必ず、プーチン大統領から「当初の作戦が成功しなかった場合にはどうするのか」との下問があったときの答えを用意するはずと考えるが、キーウからベラルーシ方面に逃げるように退却した部隊の動きを見ていると、そのような代替措置が用意されていたとは思えないのである。

プーチン大統領は誰よりも長く政権内におり、誰よりも多くの情報をもっていて、誰よりも妥当な判断ができると彼自身は確信していると筆者は思う。そうだとすれば、ここにこそ問題の根源があるのではないか。