たとえ指導者が交代しても変わらない認識
問題は、ソ連時代に「パラノイア」とも言われた過剰なまでの防衛意識、常に自分たちは外部から攻撃を受けるリスクに晒されていて、軍事力を強化しなければこちらがやられてしまう、という被害者意識は、一定程度現実の歴史に裏打ちされている面もあり、仮に今後、プーチン大統領以外の指導者が出てきたとしても、この認識が大きく変わるとは考えにくいということである。
そしてウクライナのロシアにとっての位置づけについても、おそらくロシア指導部のほとんどの者が多かれ少なかれプーチン大統領のような認識をもっていることは想像に難くない。
以上の認識は長年にわたって形成され、個々の判断をするに当たって非常に強固な基礎となっていたが、これだけでは「なぜ今」軍事行動を起こすのかは説明できない。これは結局のところプーチン大統領にしか分からないことであるが、あえて筆者の推測を言えば、このような長年の被害者意識の基礎の上に、
①2021年始め頃から活発化してきたゼレンスキー大統領による「反ロシア」的行動を抑えなければならないとの思い
②ウクライナのアイデンティティの完全否定、及びそこからくる「ウクライナは少し脅せばすぐ降伏する」というプーチン大統領固有のウクライナ観
③そしておそらくは20年以上にわたりロシアを率いてきてほぼ独裁体制を築いたことからくる驕り
があったものと思われる。
「ウクライナは西側のコントロール下にある」と信じている
これまでの一連の言動を見て、プーチン大統領は気が狂ったのではないかと言う論者がいる。そうかもしれないし、「何をしでかすか分からない指導者」を演じているのかもしれない。ただいずれの場合であっても、おそらくプーチン大統領自身は西側の脅威やウクライナに対する自身の評価を心から信じている。
さらに、ウクライナが米国を始めとする西側諸国の完全なコントロール下にあり、マイダン革命を始めこれまでの「反ロシア的行動」は西側の工作に操られた結果であると心底信じていると筆者は思う。その場限りの思いつきや交渉などを有利に進めるための方便ではない。