【本郷】いえ、史料批判や議論を通して、敵と味方を色分けしているだけと言えばいいか、必要最低限の生活を維持するために数少ない大学教員の椅子を取り合っていると言えばいいか。

深井龍之介『歴史思考』(ダイヤモンド社)
深井龍之介『歴史思考』(ダイヤモンド社)

先ほど深井さんがご指摘されたように、いまの若い世代は、お金を稼ぐ人が偉いと受け止める傾向にあります。ところが、私たちの世代には、いまだにお金を稼ぐことは汚いことだ、ズルいことだ、という意識がある。若い世代の意識が変わっているのに、いまだに古い価値観に縛られている学者は少なくありません。だから、我々歴史学者の話は、若い世代には届かないんです。

一方、深井さんのメッセージは、いまの時代にビジネスや社会でがんばっている若い人たちに突き刺さり、生き方や考え方に影響をあたえている。ビジネスの経験もない歴史学者にできる仕事ではありません。

歴史上の偉人にも「表の顔」と「裏の顔」がある

【深井】ぼくが気をつけているのは、政治的主張や、自分の伝えたいメッセージを補強するために歴史を利用しないこと。最近、明智光秀や、武市半平太が、奥さんを大切にしていたからすばらしい人間だったと語られますよね。

でも、当時は武家社会です。現代とは、女性に対する、妻に対する考え方がまったく違います。それなのに、彼らをことさら持ち上げる背景には、なにかの主義や主張があるのではないかと疑いたくなってしまいます。

【本郷】深井さんはサラッとおっしゃいましたけど、そこが難しいんですよ。とくに最近は、女性の権利や、フェミニズムが話題になっている影響か、時代背景を無視し、明智光秀や武市半平太を手放しに評価したり、女性だから、という理由だけで北条政子はスゴかったと持ち上げなければ気が済まなかったりする学者もいる。

【深井】そもそも歴史上のスーパースターは、すばらしい功績を残しただけではなく、ロクでもないこともしていたはずです。結局は、彼らも1人の人間だったのですから。(後編に続く)

深井龍之介さんと本郷和人教授
撮影=遠藤素子
(構成=ノンフィクションライター・山川徹)
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