歴史研究者と歴史好きの決定的な違い
【野村高文(Podcast Studio Chronicle代表)】今回のテーマは「歴史学」です。「COTEN RADIO」で歴史を語る深井さんが歴史学者と話すと、どういう対話が生まれるのか楽しみです。ゲストは、東京大学史料編纂所教授の本郷和人さんです。
【本郷和人(東京大学史料編纂所教授)】よろしくお願いします。
【深井龍之介(COTEN代表取締役)】歴史学は、当時の社会背景や人物の感情、利害関係を、限られた史料から読み解く学問だと僕は考えています。史料を読むだけでは、どうしてもわからない部分が出てくるはずです。それを、仮説を立てながら組み立てていく作業には、ものすごい想像力が必要なんだろうなと。実験してデータを集め、結論を出す理系の試みとは、また少し異なりますよね。
今日は本郷先生から具体的な研究方法などを伺って、その感覚を少しでもつかめればうれしいです。
【本郷】お伝えできるように頑張ります。学問として歴史学を専攻すると、とにかく膨大な史料を読みこなすことになります。ここが、歴史研究者と歴史が好きな人の線引きです。
【深井】そうですね。
【本郷】つまり史料を読めないと研究ができないので、僕が所属する東京大学史料編纂所の所員になるには、史料を読む試験があります。
【深井】テストでいい点数を取れなきゃいけないんですね。倍率はどれくらいなんですか。
【本郷】僕の時代は50倍くらいだったかな……。
【深井】50倍! すごい倍率ですね。どのように史料を読み解くんですか?
【本郷】いろいろありますが、もっとも大事なのは、その史料がどれだけ信頼できるかということ。つまり、書いた人の主観が入らないほうがいいわけです。たとえば鎌倉時代の歴史を語った『吾妻鏡』は、北条氏を「よいしょ」した書物なんですね。でもこれがないと鎌倉時代の研究は成り立たないので、「北条氏よいしょ」のスタンスを、僕たちは常に念頭に置いて読み、かつ研究しています。