音声配信番組「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」が、若手ビジネスパーソンの支持を集めている。番組の主宰者で、COTEN代表の深井龍之介さんは「歴史は人類が蓄積した貴重なデータ。現代人の悩みに応えるツールとして使ったほうがいい」という。著書『歴史思考』(ダイヤモンド社)の出版を記念し、東京大学史料編纂所の本郷和人教授との対談をお届けする――。(前編/全2回)(構成=ノンフィクションライター・山川徹)
『歴史思考』(ダイヤモンド社)の著者・深井龍之介さん
撮影=遠藤素子
歴史思考』(ダイヤモンド社)の著者・深井龍之介さん

生きた歴史を知れば悩みは軽くなる

【本郷】私は、深井さんが歴史学という分野において、とても大きな存在になると感じているんですよ。深井さんが『歴史思考』などで伝えようとしている歴史は、ビジネスや実社会でも活かせる、いわば“生きた歴史”です。

言葉は悪いですが、最近は歴史を利用して、いかに稼ぐかを考えているような人も少なくありません。だから深井さんの活動には、とても注目していました。

【深井】ありがとうございます。ぼくがポッドキャストで「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」の配信をスタートしたのは、2018年。ぼく自身が歴史は面白いと感じているから続けてきたのですが……。

興味深かったのは、リスナーから「悩みから解放された」「気持ちが楽になった」という反応がよせられたこと。歴史と個人的な悩み。一見すると関係なさそうな2つが「COTEN RADIO」を通して、つながったんです。

あるビジネスパーソンが「努力しているのに、収入が低い」と悩んでいたとします。その前提にあるのが、いまの社会ではお金を稼げる人が偉いという風潮です。または「自分は、同性が好きなんだけど、どうしよう」と悩んでいる人もいるでしょう。やはり異性を好きになるのが、「当たり前」「普通」という前提があるわけですよね。

でも、歴史を知れば、悩みの前提が崩れます。

お金を稼げる人が偉いという価値観は、近現代の資本主義社会のなかでしか通用しません。江戸時代で偉かったのは、武士や公家。彼らはぜんぜんお金を稼げなかった。キリスト教的な考えが支配していた中世ヨーロッパでは、偉さは個人の信仰心の篤さで決まりました。