タブーは家族を苦しめる
筆者は、家庭にタブー(何となく触れられないこと、口に出せないこと)が生まれるとき、「短絡的思考」「断絶・孤立」「羞恥心」の3つが揃うと考えている。
辻川家の場合、タブーが生まれたのは、夫の不倫が始まった頃だろう。仕事を理由にしているとはいえ、家事・育児に非協力的で、子供に無関心な夫。学校行事や子供向けイベントに毎回一人で参加することに、肩身の狭さを感じない人は少ない。周囲から向けられる目に対する恥ずかしさや孤立感を感じることはもちろん、子供たちに対しても、辻川さんは親として、情けなさや申し訳ない気持ちを抱かずにはいられなかったのではないだろうか。
夫はたまに家にいても、妻とろくに話さず、家の中で夫婦は断絶。夫は職場に不倫がバレるのを極端に恐れていたようだが、辻川さんいわく、「上司と部下の社内不倫なので、本人たちは隠しているつもりでも、周囲にはバレバレだったようです。みなさん大人なので、触れずにいてくれているだけ」とのこと。おそらく知らないのは本人たちのみ。夫と相手の女性は、社内で孤立していたのだ。
そして、不倫という“罪”を犯した夫と相手の女性は、短絡的思考の持ち主だと言える。辻川さんもこう話す。
「不倫をしてしまう人って、本人たちは人生を謳歌しているつもりかもしれませんが、物事をしっかり考えたり、長期的な視点が持てなかったり、自分に甘く、責任感がない人、気の毒な人なのかもしれません」
辻川さんは、夫の不倫発覚後、「不倫をした」夫のことだけでなく、「夫に不倫された」自分を恥じた。しかしそれを隠すことはせず、親しい友人や両親、姉妹などに相談。両親は、「離婚後はどうやって生活していくのか?」と心配していたが、元夫の散財ぶりを知ると、離婚に賛成。義両親は、最初は辻川さんを責めたが、しばらくした後は落ち着き、今は辻川さんや孫たちの幸せを祈ってくれている。
「離れたら、驚くほど心が穏やかになりました。そして、私は自由なんだって思えました。『愛されていないのだ』と絶望して泣かなくてすむし、威嚇を受けたり心や体を傷付けられたりする心配もなくなり、安心して生活ができることがどれだけ幸せなことか思い知りました。でも、3人の子供のためには、完全に縁を切るわけにはきません。子供たちには、『父親は今でもあなたたちのことを気にかけている』と伝えなければならず、連絡を取り続けなくてはならない。それだけで私は頭痛がひどくなり、夜寝られなくなり、アルコールの量が増えます」