子供が増えるにつれて欠けていったもの
「夫が不倫をしているかもしれない」と疑い始めた頃、辻川さんは、「この人がいなくなったら私はどうしたらいい? 子供たちはどうなるの? 1人で生きていけない!」と連日連夜、泣いて過ごした。パート収入はあったが、経済的自立はできない。捨てられたら路頭に迷う。不眠に悩み、心療内科に通院したが、今はもう、それが夢だったかのように思えるという。
「あんなに眠れなかったのは、私が右も左も分からない弱者だったからでしょうか。長女(3人目)を産んでから、元夫の態度に違和感を覚えるようになりましたが、その頃はちょうど元夫が責任のある役職に就いたタイミングだったため、仕事のストレスのせいだと思っていました。元夫は私のことを溺愛していると思って油断していました。結婚して子供ができて、少しずつ少しずつ、何かが欠けていっていたのです。気付いていたのに、気が付かないフリをしていました。子供がまだ小さかったから、私は夫どころではなかったのです」
子供は夫婦2人のものだ。妊娠中は、父親が育児に関わるのは難しいかもしれないが、出産後は、夫婦で力を合わせて育児をしていくべきだろう。辻川さんはまるで、「自分が子育てにかまけていたから、夫が不倫をした」と自分を責めているようだが、それはおかしい。生まれたばかりの赤子は、親が世話をしてくれなければ生きていくことができないのだから、父親が世話をしてくれないなら、その分、母親が世話をするしかない。それが1人ではなく、3人もいたのだ。“夫どころで”なくなるのは当然のことかもしれない。
離婚後に知ったことだが、元夫の職場は、水・金曜日は定時帰宅日だった。定時に職場を出れば、19時には家に着けるはず。だが元夫は、辻川さんが長女を妊娠中、つわりがつらくて家事育児ができないときも、頻回の授乳で寝られず「しんどいから助けて」とヘルプを出したときも、一切無視してホテルで不倫していた。
土日に出張だと言って不在にしていたときも、接待飲み会だと言って帰宅が朝になったときも、すべて不倫相手と会っていた。会社仲間とのキャンプも、不倫相手とのキャンプ。海外出張も、不倫相手との海外旅行だった。
その間辻川さんは、夫を信じようと努力し、笑顔で仕事に送り出していた。子供の学校行事やピアノの発表会に一人で参加し、休日はみかん狩りやキッザニアなどに一人で連れて行った。