「ロシアの経済を変えたい」青年たちは欧米に移住するだろう

毎年ロシアのビジネス・スクールで教えていた頃、25名ほどの学生の中には必ず3名くらい、ロシアの経済を変えたい、意味のある人生を送りたいと思っている者がいた。そういった学生は、ロシアに対しても西側に対しても、その可能性と限界をちゃんと見ていて、着実な人生設計をしようとする。そうした学生は、「西側に出て数年働き、経験を蓄積したらロシアに戻ってくる」と言ったものだ。

西側の投資銀行、あるいは大手コンサル、会計事務所のモスクワ所長には、そのようなバリバリの西側帰りのロシア青年がなっていることが多い。彼らは、1990年代混乱期の頭でっかちインテリとは違って、腰が低く、相手には実力本位で接し、現実本位で動く。西側企業が軒並み撤退した今、彼らの多くは欧米に移住するだろう。

タクシー運転手「ここでもやっていけることがわかってきた」

そんなエリートでなくても、健全なビジネス・マインドがずいぶん浸透してきたなと思う時があった。2015年3月、僕はモスクワでタクシーに乗った。運転手は50がらみの実直そうな風采のあがらない男。

河東哲夫『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)
河東哲夫『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)

「俺、事業やってたんだ。ゴミからポリプロピレンを再生する事業で、共同経営者の1人。40人雇ってた。いい事業で、環境にやさしいんだ。でも工場が火事で駄目になった。銀行融資? 借りてたら、(金利が高過ぎて)すぐ駄目になっただろうよ。税金は透明だった。パソコンで納税できるようになったしな。ものづくりは、ロシア人の夢なんだ。石油を掘って、売った代金で何かを輸入して売って稼ぐ。こんなんでやっていけないことは、子供でもわかる。あんたここの大学で教えてるって? 学生は外国に出たがってるかい? そうでもない? そうだろう。ここでもやっていけることがわかってきたんだ」

……「ここでもやっていける」、これは本当に希望を与えてくれる言葉だった。でも、ウクライナ侵略はすべてを元の木阿弥にした。プーチンはロシアの未来を破壊した。

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