ロシアは平均寿命が短く、老年世代が少ない。34歳以下が人口の43%を占めている。外交評論家の河東哲夫さんは「若い世代が当局のウソをあばいて戦争を拒否したら、当局も手を焼くだろう。生活が苦しくなってくると、ロシアの大衆は怖い」という――。

※本稿は、河東哲夫『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。

暗い背景に青いピンクの照明と空白の画面の場所とラップトップコンピュータ
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農奴の貴族に対する憎悪が、心の底に残っている

開戦後、プーチンの支持率は少し上がった。調査元によって違いはあるが、だいたい80%弱といったところ。2014年のクリミア併合の時は一時90%に迫ったが、西側による制裁と原油価格の下落で収入が下がると、支持率も60%程に下がった。

今回はクリミア併合のような成果はない。ロシア国内では、ウクライナで民間人を殺戮していること、ウクライナではプーチンの言う「ナチ」はほんの少数で、社会が団結してロシアを敵と思っていることは隠されている〔プーチンは今回の戦争をあくまで「特殊軍事作戦」と呼び、その目的をウクライナの「非軍事化」と「非ナチ化」だと説明している〕。

後で言うようにウクライナにネオ・ナチは本当にいるにはいるが、ウクライナ軍全部ではぜんぜんない。そういうことがわかってきた時に、隣の家の息子が戦死して遺骨となって帰ってくる……。そうなれば、ロシア人の怒りは怖い。言ったように、もともと農奴の貴族に対する憎悪が、心の底に残っているからだ。

「本当のこと」を知ろうとしているインテリは多い

宇露戦争の真実を、知る人はもう知っている。別に大学を出ていなくとも、本能でかぎつける天然インテリは多い。そして、教育水準の高い者はリベラルであることが多く、インターネットで本当のことを知ろうとしている。ここでのリベラルは日本でのリベラルとは少し意味が違い、自分の自由、他人の自由を大切にするという意味だ。

だから開戦早々、「みんな怖がってる。息子たちをまた戦場に送り出すことになるんじゃないかと」と、僕に言ってくるロシア人がいた。ショイグ国防大臣の娘婿やペスコフ大統領報道官の娘はSNSに、「戦争反対」のハッシュタグを表示させたと報道されている。1991年8月保守派のクーデターに抵抗して、街の広場でアジ演説をやった男は、僕がSNSにアップした、「国連からロシアを除け」という日本語論文を自動翻訳でもして読み、「いいじゃないか」というコメントを書き込んだ。よく知っているある古手(ついこの前まで若手だったのだが)の有識者は、「プーチンが、まさかここまでやるとは。自分はロシアの前向きの発展のためにやってきた。それが彼らは自分たちだけのために……。自分は今、落ち込んでいる」とインタビューで語っている。そうした人たちは、一生かけてやってきたことを、いとも簡単に否定されてしまったのだ。