なぜ円高や円安になるのか?

通貨は売り買いされることで価格が動く

▼円がたくさん買われると円高になる

中野博幸『これだけは知っておきたい「為替」の基本と常識』(フォレスト出版)
中野博幸『これだけは知っておきたい「為替」の基本と常識』(フォレスト出版)

そもそも円などの通貨は、どうして高くなったり安くなったりするのでしょうか?

ひと言でいえば、みんなが持っていたいと思う通貨は、多くの人に買われることで価格が上がり、持っていても仕方がないと思う通貨は、みんなに売られて価格が下がります。

2011年3月11日、日本は東日本大震災という未曽有の災害に見舞われました。大災害が発生して「日本経済が落ち込む」と予測すると、円を売って外貨を買うために円安になるものです。

ところが、東日本大震災後は円高に動きました。それは、日本の保険会社が保険金支払いのために海外資産を大量に処分して円に換えるだろうとの見方から、いち早く投機筋などが大量の円買いに走ったためでした。

【コラム】東日本大震災のとき、円相場はどう動いたか

2011年3月11日に起きた東日本大震災は、地震と津波によって東北地方の工場の操業停止や福島第一原発の放射能汚染をもたらし、日本経済に大きな打撃を与えました。震災後の3月20日、世界銀行は「日本の経済損失は約2350億ドル(約18兆円)」、日本政府は被害想定額を16兆~25兆円と発表しました。

これほど大きな損失があると、日本の経済成長率は数%のマイナスになりますが、このとき為替相場はどのように動いたのでしょうか?

成長率がマイナスになれば、円安になるはずです。実際、01年のアメリカ同時多発テロ発生直後は、アメリカ経済の混乱を見越してドル安になっています。

ところが、東日本大震災後は円高が急進し、原発が爆発するとさらに円高が進んだのです。先進国による協調介入が入るまで円高が続きました。その理由は、日本の保険会社が膨大になる保険金支払いの原資をつくるため、海外で運用している資産を一気に売却する(円に戻す)という予測があったからです(実際には、一気に売却する動きはありませんでした)。

その予測に基づいて大量円買いの投機取引がなされたために円高に動いたのです。これは1995年の阪神・淡路大震災時にも起きた現象です。ほかにも、日本メーカーが被災した工場を再建するために海外資産を売却するという見方も円高の原因になりました。

日本は世界最大の債権国であり、生保や損保などは海外に多くの資産を抱えていて、有事の際はその海外資産を大量に売って円を買うために円高になるという特殊な事情があるのです。