市場には2種類のトレーダーがいる。ノイズ・トレーダーとアービトラージャーだ。ノイズ・トレーダーは、トレンドを創造する。右脳派で感情的だ。アービトラージャーは、異常値からの平均回帰に賭ける。こちらは左脳派で論理的だ。タレント弁護士として活躍していた橋下氏は一見、ノイズ・トレーダーである。しかし、その本質はアービトラージャー。それが、一連の“橋下本”を読んだうえでの私の見立てである。
政治家・橋下徹の主張がコンパクトに纏められているのが本書だ。「20年間、『下り坂』の続く日本。人を替えても(政権交代)、仕方を変更(政策転換)しても良くならない。これを救う道はただ一つ、体制(システム)を変えることです」と言う。具体的にはどういうことか。
「体制の変更とは、既得権益を剥がしていくことです。いまの権力構造を変えて、権力の再配置をする。これはもう戦争です」
橋下氏にすると、現状は「異常値」であり、あるべき姿に向けて是正せねばならないということだ。このメンタリティーは、アービトラージャーに通じる。
今や中央政界においても台風の目になりつつある橋下氏の政治家への歩みを振り返るには、『徹底検証「橋下主義」』(読売新聞大阪本社社会部、梧桐書院刊)が有益だろう。新聞記者の目を通して、「テレビメディアや政治家にちやほやされ、『何かやれる』と勘違いした結果、出馬に至ったタレント候補という程度」だった橋下氏に対する周囲の認識が、「ひょっとしたら、ただ者でないかもしれない」という具合に変わってゆく様子が生々しく描かれている。
そんな橋下氏の真骨頂は、リーガルマインドについて触れた次の言葉に集約される。
「(リーガルマインドとは)表面的には○○といわれているけれども、その本質は△△なので、××と考えるべきである」(『まっとう勝負!』小学館刊)
繰り返すが、表面的な○○を追うのがノイズ・トレーダーであり、○○から××という変化を狙うのがアービトラージャー。その間にある△△が論理である。
こうした橋下氏への批判は、○○を守りたい守旧派だけではなく、△△の論理に一家言持つ論客からも寄せられる。内田樹(神戸女学院大名誉教授)、香山リカ(精神科医)、山口二郎(北海道大教授)、薬師院仁志(帝塚山学院大学教授)各氏がその代表だ。「大阪で起きていることは『多数の専制』という民主主義の負の側面」と、大阪の有権者を含めて合わせ斬りにしているのが政治学者の山口氏、「学校教育は次世代の公民を育てるためのもの」「金儲けといったせこい動機では人間は努力しません」と大阪府・大阪市の教育基本条例に反対するのは教育者の内田氏だ。
橋下氏が改革者か、壊し屋かは各論者の視点次第だが、いずれにせよ彼は〝夢.を語っているのではない。「おかしいやないか」と叫んでいるのである。