「軟銀」という言葉をご存じだろうか。中国語でソフトバンクのことだ。中国では、同社のヤフーに対する投資は神話的に語られており、日本一の金持ちと言われる統帥・孫正義氏も成功者として認知されている。

しかし、日本で暮らす私は以前から、日本での孫氏に対する評価に温度差を感じていた。そのことが本書を書評に取り上げる動機となった。本書は、戦前に船で日本に渡った祖父母のストーリーから現在に至る「孫正義伝」だが、その中で孫氏がいまだに在日韓国人ゆえの差別を受けている現実が描かれている。

「ソフトバンクが個人情報漏えい事件を起こすと、世界中のテレビにまで放映されて、新聞の一面トップでがんがんやられる」。しかし、日本の伝統的な大企業が同じ事件を起こすと「新聞に2、3回載るだけで、人間は誰でも間違いがありますぐらいで済まされちゃう」。

そんな体験があるからか、彼は粉飾決算に関する証券取引法違反容疑で逮捕されたライブドアのホリエモンこと堀江貴文氏にある種の同情を寄せている。

「あの事件で堀江さんが正しかったか間違っていたかを判断する材料を持っていない」と断りながら、「でも、大企業だって堀江さんのようにある一線を越えることだってままあるわけですよ」と切り出す。

お金持ちへのやっかみならまだ理解できるが、れっきとした日本国籍をもちながら、いまだに出自による差別を受けている。大震災の後、孫氏は被災地に入り、老朽化した原発にかえて太陽光などの自然エネルギーにシフトすべきという、脱原発復興プロジェクト構想を民主党に提言。救済に寄付した100億円とは別に、さらに10億円の私財を投じ、自然エネルギー財団を設立すると宣言した。

しかし、脱原発路線を目指そうとする孫氏は日本メディアの袋叩きに遭ってしまった。本書の著者は、孫氏を攻撃・批判した日本人たちを「彼らは、孫正義を論理ではなく生理で嫌っているからである」と指摘する。当の孫氏も、「私個人が非難されるのは、構わない。しかし、その時にわざわざ『在日』という言葉を使われるのは……」とツイッター上で嘆いた。

この書評に着手する数日前、私はある経済メディアの電子サイトに、中国に進出した日本企業の問題を取り上げた。有能な中国人幹部が日本への帰化を強要され、「世界でビジネスをする会社なのに、なぜそこまで国籍にこだわるのか、と会社の器の狭さに絶望感を覚えた」彼らは、会社を去った。結果、これらの企業は赤字に陥った。

日本という土壌で、孫正義という人材の「大木」が育った。しかし、世界が人材という資源を争って確保する時代に突入しているのに、日本社会はそれをさらに大きく育てようとしないようだ。もっと器の大きさを見せてもらいたいものだ。