岸田文雄首相が賃上げ政策を掲げたことで、企業が労働者にどれほど利益を分配しているかを見る指標、労働分配率に注目が集まっている。そこでAERA dot.では各業種の主要200社を対象に一人当たりの労働生産性はいくらか、一人当たりの人件費がどれほど増えているのか、労働分配率はどうなっているのか調査を行った。賃上げに取り組んでいる企業、取り組めていない企業はどこか見えてきた。

トヨタ自動車
写真=iStock.com/JHVEPhoto
カナダ・トロントにあるトヨタのショールーム

今年の大手製造業の春闘は、コロナ禍からの業績の回復を背景に、労働組合からの要求に満額回答をする企業が多く目立った。なかでも注目を集めたのが、トヨタ自動車だ。3月9日、集中回答日である16日を前に、労働組合が要求した賃上げや一時金に満額回答をした。それが各社の満額回答の呼び水になったと見られている。

背景にあるのは、岸田首相が賃上げを呼び掛けたことだ。岸田首相は昨年10月、首相就任の際の記者会見で「新しい資本主義を実現していく車の両輪は、成長戦略と分配戦略です」「分配戦略の第1は、働く人への分配機能の強化です」と宣言した。簡単に言えば、企業が儲けた利益を労働者の賃金のほうに回していくということだ。11月には業績がコロナ前の水準を回復した企業には「3%を超える賃上げを」と述べていた。

企業が稼いだ利益を労働者へどれだけ分配しているかの割合、つまり、労働分配率はこれまで減り続けた経緯がある。内閣府が今年2月に発表した『日本経済2021―2022』によると、大企業の製造業の分配率は90年代に68.6%だったのが、10年代は66.4%に低下、非製造業も90年代に56.6%だったのが、10年代は48.4%にまで低下している。内閣府は「労働分配率の低下傾向は、幅広い業種・規模で生じており、成長と分配の好循環に向けた課題となっている」と分析している。

中央大学の阿部正浩教授(労働経済学)はこう指摘する。