サウナには欠かせない「水風呂」もない
改装工事をする際には、宿泊棟への扉も思い切って変えている。通常、どの高級ホテルも、客室やレストラン、バーなどの扉を重くしようと考える。そうしたほうが重厚に見えて、リッチ感を演出できるからだ。
ゲストはその重い扉を押し開けて、宿泊棟に入っていく。だが、はたして、それはゲストにとって便利なのだろうか。トヨタイズムというフィルターを通して物事を見ていくと、こうした疑問が次々と湧いてくる。
結局、扉に関しても重厚なものより自動ドアにしたほうが確実に利便性が高まるという結論に達し、フロアを改装するのと同時に自動ドアに変えてしまった。このときも私は「なるほど」と目から鱗が落ちるような思いになった。それまでは、デザイン性の高い空間を用意してゲストにくつろいでもらおうと考えていた。だが、そうではなく、機能性と利便性によってくつろぎを感じてもらうことも可能なのだ。
安全安心という理由から、テラス蓼科のサウナには水風呂が併設されていない。その代わりに、ぬるま湯の風呂を用意している。
これは、水風呂に入って倒れてしまう人がいたら危ないという考えから生じた措置だ。サウナ好きからすると、少々物足りないと思うかもしれない。実際のところ、これについてはゲストからの苦情もある。しかし、安全安心を第一とし、水風呂なしというスタイルは変えていない。
職位が上がっていくほど紳士的な人が多い
トヨタは人事異動が多いことで知られている。次々と変わる部署の中で人心掌握を行いながら実績を残していった人のみが、将来的に重要な役職に抜擢されていく。たまたまどこかの部署で好成績を挙げても、次の部署でうまくいかないと昇進していくのは難しいのだ。
苦労を重ねてきた経験がそうさせているのか、役員以上のポジションに就いている方たちはどなたも実に紳士的だ。職位が上に上がっていくほど、人格も優れている印象がある。
テラス蓼科には、業界内で有名な技術者や経営者の方々がやって来る。皆さん少しも偉ぶるところがないので、スタッフの多くはそうとは気付かずに通常どおりに応対してしまうことがよくある。どの役員もホテルのスタッフに対していつも丁寧な態度で接し、親しくなるまでは相手の名前をしっかりと「さん付け」で呼ぶ。
もちろん、無茶な注文をつける人も皆無だ。それだけでなく、こちらが誠意をもって接客をすると、「ありがとね」「仕事は大変だと思うけど、頑張ってね」と、心の込もった言葉を掛けてくれるのだ。その心遣いに、私たちスタッフはいつも癒されてきた。