65歳以上の社員を「福祉的な雇用」をする企業
実際にどのくらいの企業が選別基準を設けようとしているのか。
経団連の調査によると、対象者基準を設ける企業は再雇用などの「継続雇用制度(自社・グループ)」で83.8%と大多数だ。また、今回は他社での再雇用や自社の社員を業務委託契約にして仕事を発注する仕組みも選択肢に加わった(「他社での継続雇用制度」66.7%、「業務委託契約を締結する制度」84.6%)。
再雇用や業務委託であっても対象者を選別する企業が多くなっている(「2021年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」2022年1月18日)。
その背景にはさまざまな理由が考えられるが、大きく2つある。まず、人件費コストの増加だ。サービス業の人事部長はこう語る。
「コロナ前は70歳まで全員が働ける仕組みをつくろうとの意見も人事部内であったが、コロナ禍で業績不振が続き、とてもそんな余裕はない。70歳まで再雇用するにしても会社が必要とする専門性やスキルの持ち主に限られるだろうし、65歳以降の賃金は下げざるを得ないだろう」
もうひとつは再雇用社員のモチベーションの低さだ。現在の65歳までの再雇用制度は年収が一律に60歳時点の半分程度に下がり、管理職は役職を外れることが多い。公的年金の支給の空白期間を埋めるために福祉的に雇用している企業も少なくない。その結果、社員側には、同じフルタイムにもかかわらず現役時代より安い給与で働かされるため、モチベーションが著しく低下する人も少なくない。
こうした事情を抱えている企業の多くは、生産性が低い社員を70歳まで雇うことに大きな負担を感じている。
電機メーカーの人事担当者はこうぶちまける。
「再雇用社員の中には他律的でぶら下がり意識が強い社員もいる。現在のまま、単純に70歳まで希望者全員を雇用延長することは難しい」