店を活気づけた“赤い旗”

通行人の注目を集めようとはじめたパフォーマンスだったが、これが下北沢では効果があった。二階の高いところから振る姿にインパクトがあるようだ。動画をとる通行人もおり、インスタで見たという声も聞かれる。

店の近くに踏切があり、踏切で立ち止まる人が多いという事情がある。また店の前を走る通りの地形にも秘密があった。ちょうど店の位置を境にカーブになっており、遠くから目に入りやすい。まさかこんなアナログなやり方にヒントがあるとは思わなかった。

販売体制のテコ入れも、継続して進めている。キャンペーンの実施のほか、デリバリーの対象地域を拡大している。まずは半径200メートル圏内だ。下北沢駅北口だと一番街あたりの美容室や古着屋がターゲットで、このような得意先を増やすのが狙いだ。

テイクアウト用のソース焼きそば
写真提供=焼き麺スタンド
テイクアウト用のソース焼きそば

また営業時間にも改善の余地がある。思い切って通し営業が必要かもしれない。3時半から4時半にかけての客が意外と多く、麺が売り切れ次第閉店というのも宣伝効果がある。人件費の抑制にもなる。

ウェブメディアを使った店の宣伝は、ほとんど解約してしまった。グルメサイトだけは契約期間があるので払い続けているが、効果はよくわからない。それに比べれば旗は振るだけで目立つ。立地の良さを利用するというのが、この店にとって一番の販促だった。

『dancyu』編集長、来店…突然決まったテレビ出演

2月半ばのことだった。娘の保育園の卒園式に出席するため、ぼくは朝から有休をとっていた。昼過ぎに行事がすべて終わると、3時頃焼き麺スタンドに顔を出した。

ランチタイムには遅かったからか、カウンターに女性が1人座っているだけだった。アルバイトの学生が、ちょうど帰るところだった。タイミングが悪かったはずだが、黒田の表情は明るい。テイクアウトでナポリタン大盛りを作り終えると、もったいぶったように先日の出来事を話しはじめた。

『dancyu』(プレジデント社)の植野広生編集長が来店したという。一気に冷え込み、客足が遠のいた時期だった。早く店を閉めてしまいたかったが、だらだらと客が来て、なかなか決断できずにいた。

木曜日の夜9時ごろだ。1人で店に入ってきたのが、テレビでよく見る植野だった。焼きそばとナポリタンを注文すると、黒田が作る姿をじっと眺めていた。『dancyu』は昔から黒田が何度も読み返した雑誌だ。手が震えて仕方なかった。