できあがった焼きそばを食べると、植野はひとこと「美味しい」と言ってくれたという。それが黒田には心底うれしかった。
黒田の焼きそばは、植野が出演していたテレビで紹介されることになった。収録までの2週間、あっと言う間に時間が過ぎていった。番組は、日本テレビ系列の「メレンゲの気持ち」だ。土曜日の昼12時からの放送で、毎回違うゲストが登場する。黒田の焼きそばは、和田アキ子に食べてもらう一品に選ばれたのだ。
下北沢の近くに住んでいるのかもしれないし、1日5食を食べるほどの「食いしん坊」のことだ。仲間から噂を聞いたのかもしれない。焼き麺スタンドは、以前から気になっていたという。
「昨日が撮影だったんです。日本テレビの番町まで出張して、12食分作ってきました」
「番組で何か話したの?」
「その予定もあったんですけど、トークがかなり盛り上がったんで、出番は削られちゃいました。でもうちの店しか取り上げられなかったのは、運が良かったですよ」
2つだけのコンロを倍に
出演者はほとんど食べなかったが、スタッフの評判が高かったという。また別の番組で使ってもらえるかもしれないし、何よりも植野の紹介というのがうれしい。
ポテトサラダとナポリタンは誰よりも詳しいと豪語する植野は、焼き麺スタンドのナポリタンは日本でベスト5に入ると評価していた。
「さすがにテレビの効果は大きいんじゃない?」
「ほかの店の主人に訊くと、3カ月くらいは効果が続くっていいますね」
ぼくの問いに満面の笑みで答えると、黒田は当面1日100食をこなせるように、コンロを2つ増やしたといった。
「これがあれば、麺に火を通しておいて、最後は仕上げるだけにしておけます。準備が良すぎるって笑われちゃうかもしれませんけど、行列になったときにも対応できるように手を打っておきたかったんです」