海外にとって雑魚寝の避難所は「クレイジー」
2018年の西日本豪雨では4カ月、毎日朝に冷たいおにぎり、お昼に同じ菓子パンを出し続けた避難所もありました。被災した人にとっては、要望を出したり、毎日出るおにぎりや菓子パンを断ったりしたら、もう支援がこないかもしれないという不安感もあり、泣き寝入りするしかない。
被災者がガマンを強いられるのは食事だけではありません。寒くて広い体育館で、冷たい床の上にあり合わせの畳やマット……なかには段ボールやビニールシートを敷いて眠る。これでは身体を休めることができません。
3.11の避難所を撮影した写真をアメリカやヨーロッパの支援者に見せたところ「クレイジー……」と絶句された経験があります。
「雑魚寝の避難所」の改善には、簡易ベッドを導入すべきなのですが、まだまだ進んでいません。自宅では畳に布団を敷いて寝ているから、避難所でも簡易ベッドは必要ないと考えている人が多いのです。
もちろん平時なら問題ありませんが、硬い床に一日中すわって過ごすと足腰に想像以上の負担がかかります。3.11のある避難所では、1000人中、30人の高齢者が歩行困難になりました。足腰が痛んでトイレに立つのがおっくうになり、水分を控える被災者も少なくなかった。そうなると脱水状態で血液が濃くなり、エコノミークラス症候群や脳梗塞、心筋梗塞を発症しやすくなるという悪循環に陥ってしまう。それに、雑魚寝は床にたまった埃にウイルスや細菌が付着し、感染症のリスクも高くなる。
市町村には問題意識が蓄積されにくい
避難所改善などの問題意識は、県の防災担当者には、少しずつ浸透してきたように感じます。しかし被災者支援の中心となる市町村の職員にまでそうした意識が共有できているかと言えば、疑問です。市町村の職員はたいてい3年程度で部署を異動する。経験や問題意識が蓄積されにくい上に、市町村には予算もない。
以前、ある自治体でベッドやトイレ、キッチンを48時間以内に避難所に届ける仕組み作りをしましょうと提案したところ「予算がない」「水や食べ物が先だろう」という反応でした。もちろん水や食べ物も大切ですが、同時にベッドやトイレの導入、温かい食べ物の提供も進めていかなければ、災害関連死は防げないのですが……。
――とはいえ、西日本豪雨や北海道胆振地震の避難所には、簡易ベッドが速やかに導入されたと聞きました。環境改善が進んでいるのではないですか。
うーん……。まだ簡易ベッド導入のシステムが構築されたとは言えませんね。
例えば、北海道胆振東部地震では、その前年に北見市にある日本赤十字北海道看護大学が研究用に400台の段ボールベッドを購入していました。加えて、発災当日、北海道の危機管理にたずさわり、寒冷地の避難所の危険性を訴え続けてきた北海道赤十字看護大学の根本昌宏先生が偶然、札幌にいたんです。根本先生がすぐに道庁で簡易ベッド導入を提言し、保管していたベッドを避難所に送ることができた。災害時の危機管理の専門家で、道庁の災害対策職員とも顔見知りだった根本先生だから、簡易ベッドの早期導入を実現できたと言えるかもしれません。非常に幸運な事例だったと言えるでしょう。