定年後も働き続ける高齢者が増えている。作家の相場英雄さんは最新刊『マンモスの抜け殻』(文藝春秋)で、高齢者の介護と貧困の問題を取り上げた。相場さんは「かつてマンモス団地は活気のある場所だったが、いまや『孤独死多発地帯』『都会の限界集落』となっている。とりわけ深刻なのが、高齢者の介護と貧困の問題だろう」という――。(前編/全2回)
相場英雄さん
撮影=宇佐美雅浩
相場英雄さん

20年前活気のあったマンモス団地は「孤独死多発地帯」になった

――『マンモスの抜け殻』では、高齢化や介護問題をテーマにしていますが、舞台となった都心の団地にはモデルがあるんですか。

私の仕事場の近所に建つ、かつて「マンモス団地」と呼ばれた都営住宅です。高度経済成長期に建築され、現在も約3000世帯、6000人ほどが暮らしています。日本の高齢化を象徴するように、65歳の高齢者が50%を超え、40%近くが独居世帯です。いまは「孤独死多発地帯」「都会の限界集落」とも言われています。

相場英雄さん
相場英雄さん(撮影=宇佐美雅浩)

とはいえ、僕が仕事場を構えた20年前はまだ団地には活気がありました。いまはシャッターが下りている団地1階の商店街には八百屋や肉屋が入居し、公園では小学生が遊んでいた。僕も肉屋でメンチカツ、コロッケを買ってよく食べました。

それが、いまや高齢者ばかりですからね。朝晩、犬の散歩で団地の近くを通るのですが、僕よりも少し年上の還暦を過ぎた男性が、80歳を過ぎた高齢の母親を介護している姿もよく目にします。

それに、仕事をしていると団地に向かう救急車や消防車のサイレンの音をひんぱんに耳にします。体調を崩した高齢者が運ばれたり、火の不始末からボヤ騒ぎになったりすることが多いんです。1日10回も救急車がくる日も珍しくありません。都市部の現象は、数年後の地方の姿でもある。団地の風景に、高齢者を取り巻く日本社会の変化を突きつけられました。